約 1,746,302 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1461.html
ドロの使い魔-1 ドロの使い魔-2 ドロの使い魔-3 ドロの使い魔-4 ドロの使い魔-5 ドロの使い魔-6 ドロの使い魔-7 ドロの使い魔-8 ドロの使い魔-9 ドロの使い魔-10 ドロの使い魔-11 ドロの使い魔-12 ドロの使い魔-13 ドロの使い魔-14 ドロの使い魔-15 ドロの使い魔-16 ドロの使い魔-17 ドロの使い魔-18 ドロの使い魔-19 ドロの使い魔-20 ドロの使い魔-21
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9260.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十六話「黒い牛の呪い」 牛神超獣カウラ 登場 ヤプールが消滅間際に放った怨念の欠片の最後の一つを探すグレンは、タバサとシルフィードと遭遇。 そこに老婆が助けを求めてきた。曰く、彼女の孫娘が怪物ミノタウロスの生贄に指名されてしまったという。 一行はミノタウロス退治に向かったが、その正体はミノタウロスの振りをした人さらいたちであった。 そんな悪事を見逃すグレンたちではない。人さらいたちをやっつけるが、そこに現れたのは何と本物の ミノタウロス! 本物もいたのだ! しかもそのミノタウロスは流暢に口を利き、魔法まで使う。 明らかに普通ではない。果たしてその正体は何なのだろうか? グレン、タバサ、シルフィードは不思議なミノタウロスに案内され、彼がねぐらにしているという 鍾乳洞の内部へ通された。 鍾乳洞の奥部は、実験室のようになっていた。ミノタウロスのサイズに合わせているのか かなり大きい机、椅子、かまどといった家具に、ガラス壜、秘薬が摘められた袋、マンドラゴラが 栽培されている苗床まであった。 その実験室に似つかわしくないものが片隅にあった。牛の頭蓋骨や骨の山積み。その一部だけ 塚のようで、シルフィードは若干不気味に感じた。 ミノタウロスはこう名乗った。 「わたしはラルカスという。元は……、いや、今もだが、貴族だ」 ラルカス……、その名前にタバサは聞き覚えがあった。村で聞いた名前だ。 「十年前に、ミノタウロスを倒してのけたという」 「ああそうだ。そのわたしが、どうしてこんな格好をしているのか、気になるだろうな」 ラルカスは十年前の出来事と、そこから現在に至るまでを説明した。衝撃的な内容であった。 かつてラルカスは村人たちに頼まれ、ミノタウロス退治を行ったが、洞窟に火を放って 蒸し殺そうとしてもなかなか死なないミノタウロスの強靭な生命力に感嘆し、同時に目をつけた。 実はラルカスの元の肉体は、不治の病に侵されていた。そして生き延びるために、ある決断に 至ったのだ。自らの脳を、殺したミノタウロスの肉体に移植したのだ。 「驚いたかね?」 タバサたちは頷いた。 「まあ、それも無理はなかろう。しかしな、この身体はすばらしいぞ。いいかね、魔力は脳に由来する。 呪文を使うにはまったく問題がないどころか、この身体を得てからは精神力も強くなった。体力、 生命力だけでなく、魔法もさらに強力となったのだ。それからわたしはずっと、ここで研究に打ち込んでいる」 「寂しくないのね?」 「もともと独り身だ。洞窟も、城も大して変わらぬ」 話していたラルカスは突然、う、と呻いて頭を押さえた。 「どうしたのね?」 「さわるな!」 近づこうとしたシルフィードに怒鳴ったラルカスは、かまどの側にある布を被せた何かに 手を伸ばし、布を取り払った。 下から出てきたのは、生肉のブロックの山だ。シルフィードはミノタウロスの主食が人間ということを 思い出して思わず顔が引きつったが、グレンが囁きかける。 「落ち着きな。ありゃただの牛肉さ」 ラルカスは牛肉のブロックの一つを鷲掴みすると、思い切り被りついた。貴族の品格や作法など ひとかけらもない、獣じみた振る舞いであった。 牛肉を食らうと、ラルカスは口をぬぐって改めて言葉を発する。 「失礼。見苦しいところを見せた」 「ラルカスさんとやら……あんたもしかして、ミノタウロスの本能に影響されてるんじゃねぇのか?」 グレンが問うた。ラルカスは変に否定せずに首肯した。 「実は、そうなのだ……。この身体の唯一の欠点が、そこだ。脳が肉体に影響されて精神力が 強まったように、脳が人間のものとなっても、ミノタウロスの人肉を食らいたいという欲求が 消えずに残ってしまってるのだ……。それを慰めるために、こうして定期的に肉に食らいついてるのだ。 生肉を食するなど貴族のすることではないので本当は嫌だが、本能に飲まれて獣に落ちるよりはましだ」 「……それで、十年もごまかせるものなの?」 今度はタバサが疑問をぶつけた。ミノタウロスが食べるのは、あくまで人間。牛でいいのなら、 全てのミノタウロスがそうしているだろう。牛の方がはるかに肉付きがいいのだから。一時的には 良くても、十年も本能を騙せるものとは少し考えにくい。 その点について、ラルカスは語る。 「如何にも、ただ別の生物の肉を食するだけでは、この忌々しい本能は抑え切れなかった。 豚や熊なども試したが、欲求は日に日に強まっていくばかり。いつか本当に人間に手を出して しまうのではないかと、一時は夜も寝つけなかった。しかしあることを境に、状況は一変した」 言いながら、自らの右腕に嵌めた鼻ぐりを撫でる。 「ある日のこと、畜産が盛んな地方にある、牛の霊を祀る鼻ぐりの塚の側を通り掛かった際、 ふとした思いつきから鼻ぐりを一つ失敬して、こうして自身に嵌めた。ミノタウロスは牛の 怪物なのだから、鼻ぐりをすれば飼い牛のように大人しくなるのではないか……と。何とも 滑稽な思いつきだったが、わたしはそんな滑稽さにすがりつくほど心をすり減らしていた。 そして意外にもそれが正解だったのだ。鼻ぐりをつけてからは、牛肉でのみ食人の欲求を 抑えられるようになったのだ。以来、わたしは一度も人を襲うことなく今日までやっていけている。 きっと、鼻ぐりに宿った牛の霊が助けてくれてるのだろうな」 だから鼻ぐりを嵌めているのか。そういえば、最初に立ち寄った酒場の店主が、質の悪い 牛泥棒がどうこうと言っていた。 「牛泥棒の正体はあなただったのね。泥棒だって、貴族のすることじゃないはずなのね」 シルフィードが突っ込むと、ラルカスは申し訳なさそうに頭をかいた。 「そこは重々承知してるが、何分この顔では人里で買い物する訳にはいかない。金も稼げん。 悪いとは思ってるが、こうする他にないのだ」 確かに、人が誘拐されて食われるよりかは牛泥棒の方がましかもしれないが……。どうも釈然としない。 それからもう一つ、グレンが指摘した。 「ところで、何で鼻ぐりを腕に嵌めてんだよ。鼻ぐりなんだから、鼻につけた方が効果あるんじゃねぇのか?」 するとラルカスは気分を害したように鼻を鳴らした。それが牛の突進の合図のようだったので、 シルフィードは思わず怯えた。 「わたしはこんな見た目になっても貴族だ。鼻にものをつけるような真似は、貴族の矜持が許さん。 それでは丸きり牛ではないか。わたしは人間だ!」 「……」 グレンは困ったように腕を組んだ。……怪物の肉体を奪って、独りきりで閉じこもって生活し、 牛泥棒にまで身をやつしながら、貴族であることに固執するのか。虚しくならないのだろうか? だがそこを指摘して、怒りを買ってもまずい。もしここで暴れられでもしたら、タバサたちが危ない。 「わたしの話はこのくらいでいいだろう。あの人売りどもを連れて村に帰れ」 ラルカスはそれ以上話を続けなかった。去り際にタバサたちに、わたしとここのことは 誰にも言うな、と釘をさした。 村へ帰ると、タバサたちは村人たちの歓声で迎え入れられた。捕獲した人さらいたちは 村人に散々罵られ、翌日に役人に引き渡すこととなった。 そして翌朝に村の者たちが人さらいを街に連れていき、タバサたちも同行するはずだったのだが…… 昨晩から妙にふさぎ込んでいたグレンが、こんなことをつぶやいた。 「……ヤプールの結晶は、ちょうどこの辺りに落っこちたはずだ。あれはマイナスエネルギーに 引きつけられるはず……。死んだ霊の放つ強力なものには特に……」 そうして村を出発する直前に、村人たちから踵を返した。 「ちょっと用事を思い出した。引き渡しはあんたたちだけでやってくれ!」 言い残してずんずんと昨日の森へ向かっていく。彼の様子を気にかけたタバサとシルフィードも 後を追いかけていく。 グレンの向かう先は、ラルカスの住む洞窟だ。 その少し前、ラルカスは洞窟の中で一人、頭を抱えて苦しんでいた。 「ぐッ……はぁはぁ……一体どうしたというんだ。ここ最近、変に頭痛が激しい……。こんなに ひどいのは初めてだ……」 ラルカスは頭痛を抑えようと、いつもやっているように牛肉へ手を伸ばした。しかし口に 運ぶ寸前になって、顔を大きく歪める。 「うッ! 嫌な臭いだ……!」 肉を投げ捨て、洞窟を出ると森の木の一本に目をつける。熱に浮かされるように、木に茂る 葉っぱにむしゃぶりつくと、恍惚の笑みを浮かべた。 「美味い!」 だがすぐに我に返り、慌てて口に含んだ葉っぱを吐き捨てた。 「馬鹿な……! 葉が美味いなんて、そんな訳があるか! これではミノタウロスどころか…… ただの牛ではないか!!」 激しく動揺するラルカスは右腕の鼻ぐりをなでるが……その時に気がついた。 「なッ……!? 鼻ぐりが締めついて、外れなくなってる……!?」 昨日までは確かに着脱可能だったのに、今は腕にきつく締まっていて取れなくなっていた。 何もしていないのに、こんなことになるはずがない。 「ま、まさか……鼻ぐりに込められた牛の霊が、怨念となってわたしを呪ってるのか……!? 勝手に鼻ぐりを持っていき、牛の肉に食らいつくわたしを、牛にしようと……。そんな…… そんな馬鹿なぁ!」 愕然と立ち尽くすラルカスだが、彼の信じたくない気持ちとは裏腹に、実際に身体が牛の方に 傾きつつあった。 「う……ん……ンモォ―――――! こ、言葉まで牛に……!?」 自分の口から、牛の鳴き声そのものが発せられたことに、ラルカスはいよいよ恐慌し出した。 「や、やめてくれ……! 誰か助けてくれぇぇぇッ!」 狂ったように喚きながら、どこかへと向けて駆け出していく。 初めは二足歩行だったが……徐々に前傾姿勢になっていき、遂には四足で走っていた。 グレンたちが洞窟に到着した時には、ラルカスは既にいなくなっていた。彼らは洞窟の前に、 大きなミノタウロスのものの足跡が連なっていることに気づいた。 「この足跡、新しい……」 「追いかけるぜ! 嫌な予感がする!」 足跡をたどって走っていく一行。その足跡が、途中から蹄に変わったことにタバサと シルフィードは息を呑んだ。 「ひゃああああああああああッ!?」 そして前方から、人の悲鳴が聞こえた。急いでそちらへ向かうと、近くの住民と思しき 男性が腰を抜かしていた。 「そこのあんた! 一体どうした!?」 「み、ミノタウロス……いや、牛の化け物が走ってった……!」 ミノタウロス、ではなく牛の化け物、と呼んだことにグレンは青ざめていった。自分の懸念は、 的中していたのか。 三人はそれから脇目もふらず、蹄の痕跡を追うのを再開した。 その頃ラルカスは、かつて鼻ぐりを取っていった塚の前へとたどり着いていた。その時には、 彼の姿はもうミノタウロスと呼べるものでもなくなっていた。胴体だけが辛うじて人間の、人間牛だ。 「はぁ……はぁ……」 屠殺された牛たちの鼻ぐりを山にした鼻ぐり塚にすがりつき、ラルカスは叫ぶ。 「許してくれぇッ! 頼む! 牛にしないでくれぇぇッ!!」 だが懇願も虚しく、ラルカスの身体はめきめきと膨れ上がり、けばけばしく変色していく……! 「ブモォ――――――――!」 森の中を走るグレンたちの視界に、景色に突然立ち上がった牛のような超獣の姿が飛び込んだ。 その超獣の右腕には、鼻ぐりが嵌まっていた。 「あれは!? くそッ、やっぱりこうなっちまったか……!」 「あれってまさか、ラルカスさんなのね!?」 驚愕するシルフィード。彼女の言う通り、ラルカスはヤプールの結晶の影響によって噴出した 鼻ぐりに込められた牛たちの怨念を一身に受けたことで、恐ろしい超獣カウラになってしまったのだった! 「ブモォ――――――――!」 カウラは人の住んでいる村の方へ向かおうとしている。人間たちに殺され食べられていった 牛の呪いの化身であるカウラは、その復讐として人間を食らい尽くそうとしているのだ! 「やべぇ! 止めなくちゃなんねぇぜ!」 「頑張ってなのね、グレン!」 グレンはカウラに狙われる人々を救うため、シルフィードの応援を受けながら変身! グレンファイヤーが飛び出していき、カウラの面前まで先回りした。 『止まれ! ここから先には行かせねぇぜ!』 「ブモォ――――――――!」 カウラは立ちはだかったグレンファイヤーに、遠慮なく突進! 鋭い角がグレンファイヤーに襲いかかる! 『ぐッ! 聞く耳持たねぇってか!』 咄嗟に受け止めたグレンファイヤーは、上腕筋を盛り上がらせて剛力を発動。カウラの突進を 押し返す。パワーファイターであるグレンファイヤーの力は、牛そのものの力が宿ったカウラにも 引けを取らない。 「ブモォ――――――――!」 しかしその時、カウラの姿が大きくぶれ、分身したように見えた! 牛たちの怨念の迫力が成せる業か! 『んッ!? 何だこりゃ、幻覚か!?』 突然の幻惑攻撃に、さしものグレンファイヤーも戸惑った。どれが本物のカウラなのか? 見抜く前に、カウラの頭頂部の中央に生えた角から紫色の光線が発射された! 『ぐわぁッ!』 光線の直撃をもらったグレンファイヤーは大きくひるむ。その隙を突いて、カウラが肉薄して 腕の先の蹄で殴り掛かってくる! 「ブモォ――――――――!」 『うおぉぉッ! くぅッ……!』 蹄の振り下ろしは最早鈍器の叩きつけだ。殴打の強烈な衝撃にグレンファイヤーも追い詰められるが、 『怨念なんかにゃ、二度と負けてたまるかぁッ! もう誰の命も、奪わせやしねぇぜッ!』 叩きのめされながら、グレンファイヤーの戦意は強く燃え上がった。その理由は、怨念の前に 大事な仲間が消え去ってしまったから。もうあんな悲劇は起こさないと、彼は誓ったのだ。その想いが、 熱い炎を作り出す! ファイヤーコアが点灯した! 『うおおおぉぉぉぉぉ――――――――――! ファイヤァァァァァァァァ――――――――――――ッ!!』 「ブモォ――――――――!!」 盛り返したグレンファイヤーの炎の拳が、逆にカウラを追い詰め始めた! 凄まじい気迫の 拳打は怨念の力を押し返し、カウラに物理的以上のダメージを与える。 戦況は一気に逆転。カウラはグロッキー状態になり、もうひと押しすれば完全に倒せる状態まで行った。 が、しかし、ここに来てグレンファイヤーはとどめを躊躇う。その理由は次の通りだ。 『このまま倒すのは簡単だ。けど、こいつはラルカスが変身したもの。やっつけちまっていいのか……!?』 ラルカスは、ミノタウロスの身体になり果てながらも、あくまで人間。カウラを倒すということは、 彼を見殺しにすることになる。そんなことをしていいのか。だが、カウラに宿った怨念をどうやって 晴らせばいいものか……。 手をこまねいていると、グレンファイヤーに応援がやってきた。ミラーナイトであった! 『グレン、事情は伺いました。超獣を元に戻すのは任せて下さい』 『ミラーナイト! 分かった、頼んだぜ!』 体力を戻したカウラは、新たに現れたミラーナイトへと突進を仕掛けていく。だがミラーナイトは よけようとも逃げようともせず、視線をカウラのある一点に集中していた。 その一点とは、腕の鼻ぐり! 牛の怨念の中心がそれであると、ミラーナイトは見抜いたのだ! 『はぁぁぁッ!』 そして流れるような蹴り上げを見舞った! タイミングは見事ばっちり。つま先が鼻ぐりに命中し、 鼻ぐりは腕から外れ吹っ飛ぶ! 怨念の中心が離れたことで、カウラは一気に力を失った。 『いやぁッ! とぉあッ!』 ミラーナイトはそのままジャンプして鼻ぐりをキャッチ。そして降下しながら、それをカウラの 鼻に目にも留まらぬ速さで嵌め込んだ! 「ブモォ――――――――……」 その途端に、カウラは先ほどまで猛っていたのが嘘のように大人しくなった。鼻ぐりが本来の 位置に嵌まったことで、牛の怨念は慰められて落ち着いたのだ。 『さぁ、仕上げです。ヤプールの結晶にとどめを!』 『よっしゃあッ!』 最後はグレンファイヤーが決める。カウラの巨体を高々と持ち上げると、地面へ向けて勢いよく投げた! その衝撃により、ヤプールの結晶は粉々に砕け散って消滅した。それにより牛の怨念も霧散していき、 カウラは元のラルカスの状態に戻った。 ヤプールの悪あがきの超獣を無事に退治したことにより、ミラーナイトは帰還していった。 グレンファイヤーも人間の姿に戻り、タバサたちの元まで駆け寄る。タバサとシルフィードは 仰向けに倒れているラルカスの側にいた。 「おーい! お前らー!」 「あッ、グレン! お見事だったのねー!」 シルフィードは戻ってきたグレンに向けて歓声を上げた。これで事件は解決……。 が、その時にラルカスが勢いよく起き上がり、タバサに飛びついた! 「えッ!? お姉さま!」 ラルカスの目は鈍く、赤く光っており、粘性の高い涎が垂れている口から言葉が漏れ出た。 「ぐぅお……わ、わたしはき、貴族……ウマソウ……人間……オマエ、ウマソウ……タベル……!」 明らかに様子がおかしい。言動がミノタウロスそのものになってきている! 「そんな……ここまで来て、ラルカスさんはミノタウロスになっちゃったのね!?」 シルフィードは“変化”を解いてタバサを助け出そうと身を乗り出した。が、それをグレンにさえぎられた。 「待て」 「どうして止めるのね!? 早くしないとお姉さまが……」 「タバサの目を見ろ」 タバサはこの状況で取り乱さず、じっとラルカスを、冷たい、蒼い瞳で見据えていた。 それに気づき、シルフィードもゴクリと息を呑みながらも見守ることにする。 「ウマソウ。ダカラオレ、オマエヲタベル……」 葛藤を見せていたラルカスだが、とうとうミノタウロスの本能の方が勝ったのか、捕らえた タバサに対してかぶりつくように大口を開けた。 その瞬間にタバサは呪文を唱えた。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」 一瞬で、ラルカスの口腔内の涎が氷結して、“矢”へと変化した。何十本もの氷の矢は喉から 食道を通って体内に飛び込み、内臓をズタズタに引き裂いた。 ごぽっ、とラルカスが血液を吐き出し、タバサを放して横に倒れた。 その目から、赤い、獣の光が消えていく。ついで、ラルカスの血まみれの口が開いた。 「……これでよかったのだ。藁にもすがって、牛肉にかぶりついてごまかしても、本当のところは 自分の精神が徐々にミノタウロスに近づいていっているのは自覚していた。日に日に“わたし”で いられる時間は減っていった。いずれ近い内に、本当に人間に襲いかかっていただろう。死のうとも 考えたが……わたしには己の命を絶つ勇気がなかった。それに比べて、少女よ、君は見事だ。 わたしはかつて火を放って洞窟内のミノタウロスを窒息させて殺したのだが……、スマートな やり方とはいえぬな。お前のように、硬い皮膚を避けて内臓を狙うことなど思いもつかなかった」 タバサがひと言告げる。 「たまたま気づいた」 ラルカスは唇のはしをわずかに持ち上げた。笑顔を浮かべているのだった。 「礼を言うぞ。気に病むことはない。わたしは本当は、とっくに死んでいたのだ。逃げ続けていた 死がとうとうやってきただけのこと……。少女よ、最後にお前の名を教えてはくれんか」 タバサはわずかに目をつむったあと……、己の本名を告げた。 「シャルロット」 「よい名だ」 「ありがとう」 小さく、タバサは頷いた。 「ああ……、自分が自分でなくなるというのはイヤなものだな。実にイヤなものだ」 ラルカスは先ほどより大きな血の塊を、ごぽ、と吐き出した。それが合図でもあるかのように、 ラルカスの小刻みな痙攣が止まる。 ゆっくりと、徐々に、ラルカスの目から光が失われていった。 ラルカスの遺体はグレンたちによって火葬された。死を避け続けた挙句に牛の怨霊になりかけたが、 最期は人として死ぬことが出来たのは幸せだったのかもしれない。 「ラルカスさん……、自分が自分でなくなるのがイヤだって言ってたけど……、そのとおりなのね。きゅい」 シルフィードのひと言にグレンが頷く。 「そうだな。人は、どんなに辛いものでも、自分の運命にゃきちんと向き合わなくちゃいけねぇんだ。 逃げたら、きっと何かがおかしくなっちまうんだろうな」 グレンの言葉を、タバサは無言で聞いていた。 ラルカスに対して黙祷を捧げたグレンは、タバサとシルフィードに向き直る。 「……これで事件は解決だ。俺はまた旅に戻る。捜さなくちゃなんねぇ奴もいるしな……。 お前らはキュルケんとこに帰るのか?」 「うん」 「もう寄り道はしない」 タバサの言葉に、グレンはゆっくりと頷いた。 「分かった。またどこかで巡り合う時があったら……お互い力に合わせようぜ」 グレンとタバサは静かに約束を交わすと、互いの道へと分かれていった。それからグレンがつぶやく。 「ゼロ、サイト……もしお前らの運命が最悪のものでも、俺はそれにちゃんと向き合う。 向き合わなくちゃなんねぇ……。けど、そうと決まるまでは、俺は諦めないからな。 運命に立ち向かうのが、人間のすべきことなんだ!」 グレンの願いが無事に叶っているということを彼が知るのは、もう少し先のことであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9088.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十六話「逆転!グレンファイヤー只今参上」 地底エージェント ギロン人 恐怖の円盤生物軍団 登場 怪獣。生物の常識を超越した能力を有し、古くから人類を巨体と圧倒的な力で脅かしてきた存在だが、 怪獣とひと口に言っても多種多様な種類がいる。そして中には、複数の種の中で一定の生態上の特徴を 共有するものたちも存在する。 かつて、才人やウルトラマンゼロの故郷のM78スペースには、「ブラックスター」という 生きた惑星が存在した。その星は「ブラック指令」という人物とともに他の星に侵略の魔の手を 伸ばしていたが、現在はウルトラマンレオにより破壊されたことでもう宇宙の塵となっている。 そのブラックスターは、自身は巨大すぎるために、侵略行為の際には自らの内部で様々な種類の怪獣を 生み出し、ブラック指令からの指示で他星にそれらを送り込むという手段を用いていた。ブラックスターで 生み出された怪獣は皆、目的のためなら手段を問わない冷酷非情な性格をしており、宇宙空間を高速で 移動するために円盤に似た飛行形態を持つという特徴を有している。このことから、ブラックスターが 生み出した怪獣の一群は「円盤生物」という通称がつけられている。 その極悪非道な円盤生物が、ヤプール人の手により蘇り、ギロン人に率いられて今、 ウルトラマンゼロに襲い掛かる! 『くそッ! 数をそろえりゃいいってもんじゃないぜ!』 ギロン人も入れて十三体もの敵に包囲されてしまったゼロは、悪態を吐いてゼロスラッガーを投擲した。 しかし左右両方とも、ロベルガーの腕の一振りとブラックエンドの角に弾き返されて戻ってくる。 『馬鹿め! 当然貴様を倒すための訓練を積ませてあるわ!』 『くッ……!』 スラッガーがゼロの頭に戻ると、ブラックエンドがまたも咆哮を上げた。 「ガアアアアアアァァァァ!」 どうやらブラックエンドが円盤生物の司令塔のようだ。その鳴き声により、種々の円盤生物が 一斉に攻撃を開始する。 「キィ――――!」 まずはカブトガニ型のブラックドーム、鳥型のサタンモアが空を滑って突進していく。 ブラックドームのハサミと、サタンモアの鋭いクチバシが前後からゼロに迫る。 『せぇいッ!』 しかしゼロはハサミとクチバシを、上半身を反らしてかわし、ブラックドーム、サタンモアに 一発ずつ拳を入れて押し返した。 だがそれ以上の反撃をしている暇はなかった。クラゲ型のアブソーバが怪光線、ヒトデ型の デモスが溶解泡、貝型のブラックテリナが火花を吐いて一斉攻撃してきたからだ。ゼロは 三体の集中攻撃を、大きく横に跳んで回避する。 「ギャオオオオオオオオ!」 「ギャアアアアアアアア――――――!」 その直後に別方向から、カエル型のブラックガロンが両腕から火花を、二つの顔を持った ブリザードが腹部から火炎を噴き出してきた。 『くッ!』 回避が間に合わず、ゼロは咄嗟にウルトラゼロディフェンサーを展開。火花と火炎を防いだが、 そこに背後からアンコウ型のハングラーが忍び寄る。 「ピギャ――――――!」 『ぐあぁぁッ!?』 ハングラーが大口を開けて、ゼロの右足に食らいついた。ハングラーは自動車を捕食したことから 分かる通り、鉄を易々と食い千切るほど顎の力が強い。ゼロはその力で右足をひねり上げられて 絶叫を上げた。それでも左足でハングラーの額を蹴りつけ、どうにか右足を引き抜いた。 「ガアアアアアアァァァァ!」 だが直後に、角や尻尾を収納して丸まったブラックエンドが転がってきて、ゼロを撥ね飛ばす。 『うあぁッ! くそッ、こいつら……!』 転がるブラックエンドに、ブラックドームが再び向かってくる。二体を迎え撃つために ゼロがストロングコロナゼロに変身しようと一瞬赤く光るが、 「ギイイイイィィィィ!」 『がぁッ!』 そこにノーバが両目から光線を撃ってきて、変身を止められた。そしてブラックエンドと ブラックドームの同時の体当たりを食らい、大きく吹っ飛ばされる。 「キィ――――――――!」 倒れたところに、ロベルガーが両腕を振るって、ボールを投げるように光弾を乱射し出す。 ブーメラン型の単眼からも大型の光弾が飛び、ゼロに集中砲火を浴びせる。 ブラックエンドやアブソーバ、ハングラー、ブリザードなどは一斉に火炎放射をした。 他の円盤生物も、それぞれの遠隔攻撃をゼロに浴びせる。 『ぐうおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』 円盤生物軍団の猛攻を一身に食らい、ゼロの絶叫が響き渡り、同時にカラータイマーも点滅し出す。 普通の野生の怪獣ならば、たとえ何体も群れていたとしても、それぞれが勝手に動くので、 切り崩すのは難しいことではない。だが円盤生物たちは、同じ存在から生み出された兄弟の ようなものだからか、完璧に統率が取れていた。ゼロは反撃の機会も見つけられず、一方的に 攻め立てられる。 「ゼロが大ピンチだわ! でも……!」 焦るルイズだが、今の彼女はタルブ村で見せたような大爆発は使えなかった。先ほどの戦闘で 使用した『爆発』で消耗した上に、ウェールズに掛けた『ディスペル』がとどめとなって 精神力がほぼ空になってしまったのだ。今はコモン・マジックすら使えるかどうか怪しい。 「肝心な時に使えないじゃない、『虚無』の魔法……!」 絶大な効果の『虚無』の欠点を痛感し、歯噛みするルイズ。しかもそんな彼女にも、敵の手が及ぶ。 サタンモアの下部から、分身のリトルモアが放たれ、ルイズの下へ迫ってきたのだ。リトルモアは 小鳥程度の大きさだが、クチバシの殺傷力は人間の身体を突き破るには十分なほどある。 「きゃあッ!? こ、こっち来ないで!」 未だ気絶したままのタバサとキュルケやアンリエッタらをかばい、杖を振り回してリトルモアを 追い払おうとするルイズ。しかし円盤生物の分身にそんなものは通用しない。彼女が襲われるのは 時間の問題だ。 最早自身の力ではどうすることも出来なくなったルイズは、仲間に助けを求めた。 「来て! ミラーナイト!」 手を伸ばして、指に嵌めた『水のルビー』を突き出す。その瞬間にルビーが光り、ミラーナイトが リトルモアの群れを薙ぎ払いながら飛び出した。 『はぁッ!』 宙に舞いながら颯爽と登場したミラーナイトは空中からミラーナイフを乱射し、円盤生物たち 半数を撃ってゼロへの攻撃を止めさせた。 そしてはるか上空からは、ジャンバードが地上へ向けて急降下してきた。ジャンバードから ミサイルが放たれて、残る半数に食らわせる。これでゼロに降りかかる攻撃が全てやんだ。 『ジャンファイト!』 ジャンバードから変形したジャンボットが、軽やかに着地したミラーナイトの隣に並ぶ。 『ゼロ、もう大丈夫です! 私たちが加勢します!』 『ヤプール人の手下め、卑怯な真似をしおって! このジャンボットが成敗する!』 『現れたな、ウルトラマンゼロの仲間め!』 戦いの構えを取ったミラーナイトとジャンボットにギロン人が振り返り、ハサミを突きつけた。 『愚か者どもが! 円盤生物はこれで全てではないのだ!』 『何!?』 驚いたミラーナイトとジャンボット双方の全身に、長い赤い触手が素早く絡みついた。 『うわッ!? な、何だ!?』 『しまった! 捕まった!』 気がつけば、いつの間にか白いクラゲ型の新たな円盤生物が二人の背後に浮いていて、 胴体下部から触手を伸ばして二人に巻きつかせていた。この円盤生物の名はシルバーブルーメ。 地球で最初に確認された円盤生物であり、当時の防衛チーム・MACを全滅させたり地球人を 何百人も虐殺したりと甚大な被害をもたらした凶悪怪獣だ。 『ど、どこから現れたんだ! 私のレーダーに反応はなかった!』 ジャンボットがうろたえるが、それも無理からぬことだ。円盤生物のほとんどは大きさが、 人が手に持てるほどの小型から大怪獣サイズまで伸縮自在であり、特にシルバーブルーメは その能力に優れる。ギリギリまで小さくなれば、レーダーをかいくぐることすら出来るのだ。 これが、MACが宇宙基地ごと呑み込まれてシルバーブルーメたった一体に完全敗北を喫した 最大の原因である。 『グハハハハハハ! 奇襲こそが円盤生物の本領! 貴様らがウルトラマンゼロを助けに 来ることなど最初から分かっていた。だからあえてシルバーブルーメを出さずに 潜ませておいたのだ! 貴様らも罠に掛かったという訳だぁ!』 ギロン人がハサミから針状の光線を放って、防御することも出来ないミラーナイトとジャンボットを狙い撃つ。 『ぐわあああぁッ!!』 自分たちを捕らえるシルバーブルーメの胴体からは黄色い溶解液が流れ、二人の身体を焼く。 他にもアブソーバの怪光線、デモスの溶解泡、ブラックガロンとブラックテリナの火花が集中した。 ミラーナイトたちまでがなぶられる羽目に陥ってしまった。 『や、やめろテメェらぁー!』 「キィ――――――――!」 必死に立ち上がったゼロを、上から目の前に降り立ったロベルガーが蹴り上げた。もんどりうったところに、 またも円盤生物たちの攻撃が雨あられと飛んできた。 『うあああぁぁぁぁ――――――――――――!!』 五体はミラーナイトたちの方へ回ったが、それでもまだゼロを袋叩きにするのに十分な数がいる。 状況は何も変わらなかった。 「そ、そんな……嘘でしょう……?」 ゼロにミラーナイト、ジャンボットまでが追い詰められ、タルブ村で救った自分も魔法が使えない。 勝算が一切失われた絶望的状況に、ルイズは夢であってほしいと願うほどになってしまった。 『グハハハハハハァ! 無様なりウルティメイトフォースゼロ! 我が支配者の手を煩わせる までもなかったな! ここでこのギロン人が全滅させてやるわぁッ!』 勝利を確信したギロン人が豪語した。だがその時、 『ふッ……』 ミラーナイトが攻め立てられながらも、冷笑を見せた。 『ん!? 何がおかしい!』 聞きとがめたギロン人が振り返ると、ミラーナイトは攻撃を受けながらも堂々とした声色で告げた。 『そちらが戦力を隠していたように、ウルティメイトフォースゼロも私たちで全員ではないのだッ!』 『何だと!? ま、まさか!!』 その時、夜空の彼方の一点が紅く光った。その点から紅い渦が発生し、どんどんと大きくなっていく。 よく見ればそれは、空を飛ぶ巨大な火の玉が螺旋を描いて戦場に向かってきているのだった。 『ファイヤァァァァァ―――――――――――――!!』 火の玉は空中を旋回していたサタンモアに正面から体当たりすると、一瞬で相手の身体を 突き破って木端微塵にした。そしてゼロの前へと降り立ち、八方の炎を散らして彼への攻撃を 全て弾き飛ばした。 『ヘッヘッ、ヒーロー参上! ってとこだぜ!』 炎が散って、火の玉の心にいた巨人の姿が明らかになった。巨人本体も、紅蓮の炎に負けず劣らずの 赤い体色をしている。顔はミラーナイトと同じく目鼻口がなく、火炎を象った特徴的な形状だ。 巨人が髪をかき上げるような仕草を取ると、頭部から一瞬炎が激しく燃え上がった。何から何まで 炎尽くしの、ある意味とても暑苦しい巨人だった。身体つきも非常に筋肉質だ。 「あ、あれは……!」 ルイズは炎の巨人の正体が薄々分かっていた。このタイミングで現れ、ゼロを救った彼は、 ゼロたちが捜していた最後の一人……! 『何者だぁ! 貴様はぁ!』 ギロン人が直接問いかけると、巨人は大仰に肩をすくめた。 『俺を知らないってか? 不届きな奴だぜ! だったら教えてやろうじゃねぇか!』 巨人は荒っぽい口調と、荒々しい仕草で自身を親指で指し示した。 『俺様はこっちの宇宙に来てるウルティメイトフォースゼロの最後の一人! 燃えるマグマの グレンファイヤー様よッ!』 『貴様がグレンファイヤー! こ、このタイミングで現れるとは……!』 既に円盤生物を一体倒され、動揺を隠せないギロン人に、ミラーナイトが言い放つ。 『罠を張っていたのはそちらだけではない! 私たちへの対策があることを考慮して、 まだ存在を見せてなかったグレンファイヤーを控えさせてたのだ! そうとも知らずに、 手の内を明かしたな!』 『そ、そうだったのか! おのれぇ……!』 見事にミラーナイトの策に引っ掛かり、ギロン人は激しく悔しがった。 『ゼロ、しっかりしな! お前の底力はこんなもんじゃねぇだろ!』 『グレン……! ああ、そうだな……!』 グレンファイヤーに助け起こされたゼロは、ルナミラクルゼロへ変身。ゼロスラッガーを 六枚に分身させた。 『ミラクルゼロスラッガー!』 六枚のゼロスラッガーが高速で飛び、シルバーブルーメの触手と本体を瞬く間に滅多切りにして、 爆散させた。それによりミラーナイトとジャンボットが解放された。 『助かりました、ゼロ! これで十全に戦えます!』 『助けに来たはずが助けられるとは、申し訳ない! この失態はすぐに挽回するとしよう!』 四人そろったウルティメイトフォースゼロに一気に巻き返されたことでギロン人が焦るが、 それを紛らわすように声を張り上げる。 『調子に乗るな! 数の優位はまだこっちにあるのだ! 円盤生物どもッ! そいつらをねじ伏せろぉーッ!』 「ガアアアアアアァァァァ!」 「ギイイイイィィィィ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 「ギャアアアアアアアア――――――!」 「ピギャ――――――!」 「キィ――――――――!」 ギロン人の命令で、生き残りの円盤生物軍団が一斉にウルティメイトフォースゼロに押し寄せていく。 するとグレンファイヤーがひと足早く前に出た。 『遅れて到着した分、活躍させてもらうぜぇッ!』 グレンファイヤーに一番に攻撃を仕掛けたのはブラックドームだ。飛行しながら巨大なハサミを 振りかざして襲い掛かっていく。だが、 『おらぁッ!』 グレンファイヤーはブラックドームがハサミを振るうより早く、炎を纏った拳、グレンファイヤーパンチを 叩き込んだ。その一撃でブラックドームの身体を覆う固い甲殻はかち割れ、たちまちの内に全身が 木端微塵に吹き飛んだ。 「ピギャ――――――!」 ブラックドームを倒したばかりのグレンファイヤーに、ハングラーが高熱火炎を浴びせた。しかし、 『何だぁ!? これが炎のつもりかよ! ちっとも熱くねぇぜ!』 炎の戦士のグレンファイヤーに火炎攻撃など通用しなかった。彼は平然と火炎放射を受け切る。 『俺が本当の炎って奴を味わわせてやるぜッ!』 宣言したグレンファイヤーの全身がまた燃え上がり、ハングラーへと突進していく。ハングラーは 大口を開けてそれを待ち構える。 『ファイヤァー!』 頭からハングラーの口の中へ飛び込むグレンファイヤー。その途端にハングラーは身体の 内側から炎上し、爆発四散。跡にはグレンファイヤーが仁王立ちする。 「ギャアアアアアアアア――――――!」 炎が効かないなら、とばかりにブリザードが青い方の面から冷凍ガスを噴きつける。 しかしそれもグレンファイヤーにはヘッチャラだ。 『そんな貧弱な冷凍ガスなんかじゃ、俺の炎は消せはしねぇんだよ! ファイヤースティック!』 両手の中に炎の如意棒を出現させると、それを袈裟に振り下ろした。ブリザードは如意棒に 身体を両断され、大爆発を起こした。 『ちっとも手応えがねぇぞぉ! もっと骨のある奴はいねぇのかぁッ!』 「キィ――――――――!」 グレンファイヤーが挑発した瞬間に、ロベルガーが走っていきキックを繰り出した。 グレンファイヤーは咄嗟に回避し、ファイヤースティックの突きを繰り出したが、 ロベルガーの手の平に掴まれて受け止められた。 『んッ!? だらぁッ!』 「キィ――――――――!」 グレンファイヤーとロベルガーが互いの腰部を蹴りつけ、後ろへ下がって距離を取り合った。 『お前はちょっとは出来るみたいだな。そう来なくっちゃ面白くねぇぜ!』 『ウルティメイトフォースゼロ、抹殺』 ファイヤースティックを引っ込め、ボクシングのようなファイティングポーズを取った グレンファイヤーに対し、ロベルガーが命令を繰り返した。 円盤生物は基本的に暗殺が主体で、格闘戦は不得手である。しかしロベルガーはブラックスターが 砕け散った後に、その破片からある存在が尖兵にする目的で作り出した円盤生物なので、例外的に 直接戦闘に特化した能力バランスなのだ。一説では、円盤生物最強と謳われたブラックエンドをも 上回る実力だという。 『うらぁぁぁ―――――!』 「キィ――――――――!」 グレンファイヤーとロベルガーが拳を交えて、激しい肉弾戦の火蓋を切った。 『はッ!』 一方では、ミラーナイトがブラックテリナから放出される火花をバク転で回避した。 ブラックテリナは宙を飛び交ってミラーナイトを追いかけ、執拗に火花で狙う。 しかし何度目かの交差の瞬間に、貝殻の中から飛び出た赤い足を掴まれた挙句に、飛行の勢いを 利用されて地上へ引きずりおろされた。 『やぁッ!』 その瞬間にミラーナイトは、貝殻の中にミラーナイフを撃ち込んだ。光刃に内臓をズタズタにされ、 ブラックテリナは炎上して絶命した。 「ギャオオオオオオオオ!」 死亡したブラックテリナに代わり、ブラックガロンが両腕の穴から火花を放とうとする。 だがそれを制して、ミラーナイトがミラーナイフを二発発射した。狙う先は、ブラックガロンの両腕。 ミラーナイフが両腕の穴の中に入ると、爆発が起こって火花の発射口が潰された。 「ギャオオオオオオオオ!」 『今だッ!』 両腕が使い物にならなくなって狼狽するブラックガロンへ、一直線に駆けていくミラーナイト。 だがその瞬間、ブラックガロンの口から長い舌が伸びて、ミラーナイトの首に巻きついた。 『ぐッ!?』 「ギャオオオオオオオオ!」 ブラックガロンは何と舌の力だけでミラーナイトを持ち上げ、地面へ叩きつける攻撃をする。 したたかに打ちつけられて苦しむミラーナイトだが、その程度で参る彼ではない。 『はぁッ!』 宙吊りにされた状態からミラーナイフを放ち、舌を半ばから断ち切った。 「ギャオオオオオオオオ!」 その途端にもがき苦しむブラックガロン。長い舌はブラックガロンの最後の武器であるのだが、 同時に弱点でもあるのだ。結局舌を切断されてバタリと倒れ込むと、そのまま粉々に爆発した。 ジャンボットはアブソーバとデモスを同時に相手取っている。ロケット弾と溶解泡が ジャンボットに降りかかる。 『ジャンブレード!』 ジャンボットは両者の攻撃を、ジャンブレードで切り払いながら前へ突き進む。その先にはアブソーバ。 攻撃の手を強めるアブソーバだが、ジャンボットの剣技には通用しない。 『せぁッ!』 距離を詰めると、ジャンブレードの一閃が叩き込まれた。アブソーバは斜めに両断され、 爆破して消滅する。 それを目の当たりにしたデモスは、もう敵わないと見たのか、一人で戦場から逃走しようと 高く飛び上がり出した。だがそこに、ジャンボットのバトルアックスが飛んでくる。 『むんッ!』 戦斧の刃が突き立ったデモスは地上に叩き落とされ、そのまま爆散した。 『おのれぇ、次々と円盤生物が……! せめて、残ったノーバとブラックエンドでウルトラマンゼロ! 死にかけの貴様にとどめを刺してくれるッ!』 悔しがるギロン人が、ノーバとブラックエンドとともに、カラータイマーの鳴り止まない ゼロへ向き直った。 『なめるなよ! エネルギーが足りなくたって、お前らなんかに負けねぇぜ!』 『強がっても無駄だ! 貴様の技は分析してある! 大技のごり押しも、今は出来んだろう! 今の貴様にノーバとブラックエンドを破ることなど出来んわッ!』 ギロン人の言葉通り、エネルギーが切れかかっている今の状態では、ノーバ、ブラックエンド、 そしてギロン人を同時に相手にするのは無理があった。ゼロツインシュートなどの強力な攻撃で 強引に突破することも出来ない。一見すると、手詰まりの状況だ。 しかしゼロには、一つだけ、とっておきの秘策があった。 『だったら、このハルケギニアに来てから手に入れた新たな力を見せてやるぜ!』 『あ、新しい力!? 何だそれはッ!』 ゼロのひと言に、ギロン人たちが動揺する。 『行くぜぇッ!』 そして敵の見ている中で、ゼロが右手を胸の前に伸ばした。 すると手の平の中から、光り輝く刀身の剣が現れ、柄が握り締められた。 『うおおおッ!? お、俺っちがすげぇでかくなってるぞ!? もう一人の相棒、こいつは 一体全体どういうことだ!?』 『お前はこれから、俺と一緒に戦うんだ! 力を貸してくれ、デルフ!』 剣から慌てふためいた声が起きた。剣の正体はデルフリンガーだったのだ。ルナミラクルゼロの 超能力により、ウルトラマンエースがザイゴン戦で披露した物質巨大化能力と同じ力を発揮して、 普段の変身中は才人と一緒に自分の中にいるデルフリンガーを自分のサイズに合った大きさへ 変貌させて出したのだ。 『これが、俺がハルケギニアで手に入れた力。新しい仲間の力だぜッ!』 『小癪なッ! そんな原住民の骨董品で、何が出来るものか! やれぇッ!』 「ガアアアアアアァァァァ!」 「ギイイイイィィィィ!」 ギロン人の命令で、ブラックエンドの火炎放射とノーバの火炎球がゼロに襲い掛かる。 だがゼロはデルフリンガーを薙いで、火炎を切り払いながら前進する。 『俺の仲間を愚弄するなぁッ!』 デルフリンガーの刃が閃き、ノーバが横に、ブラックエンドが縦に両断された。データにない ゼロの攻撃を防ぐことが出来なかった二体は、身体がバックリ割れて爆散した。 『なぁぁぁぁッ!? そ、そんな馬鹿なぁぁぁ!』 『アンリエッタの心をもてあそんだこと、怪獣墓場で反省しな! ギロン人ッ!』 気が動転して立ち尽くしたギロン人も、ゼロの手でZ字に切り裂かれた。 『ぎゃああああああ――――――ッ!!』 断末魔を上げたギロン人が爆死し、残る敵はグレンファイヤーと殴り合っているロベルガー 一体のみとなった。 「キィ――――――――!」 孤立無援となったロベルガーだが、単体でも指令を果たすつもりのようだった。宙を浮いて グレンファイヤーから距離を取り、ウルティメイトフォースゼロへ滅茶苦茶に光弾を放ち始める。 『うおおおぉぉぉッ!』 グレンファイヤー、ゼロ、ミラーナイト、ジャンボットが光弾の爆発に呑まれて、足を止められる。 しかしグレンファイヤーは、猛攻に晒されながら敵へ向き直った。 『悪あがきはよしな! テメェはもうおしまいなんだぜッ! おおおおぉぉぉーッ!』 胸を叩くように撫でると、そこにカラータイマーに似た赤い丸が浮かび上がって、グレンファイヤーの 全身が激しく燃え出した。ファイヤーコア。グレンファイヤーの心の力が発揮される時に、彼の感情の 昂りとともに表れるものだ。 『ファイヤァーダァーッシュッ!!』 炎に包まれながら駆け出し、光弾が命中しても止まることなく、ロベルガーに突進した。 「キィ――――――――!」 グレンファイヤーの炎が燃え移り、ロベルガーは全身余すところなく木端微塵に炸裂した。 ギロン人率いる円盤生物軍団は全滅した。戦いを終えると、デルフリンガーを元に戻したゼロは、 勢ぞろいした仲間たちと再会を喜び合う。 『グレン、危ないところを助けてくれてありがとうな。これでウルティメイトフォースゼロ出張組がそろった!』 『へへッ、当然のことだろ! ゼロ、大体の事情はミラーから聞いてるぜ。俺がいない間 大変だったみたいだが、安心しな! このグレンファイヤー様が来たからには百人力! ヤプールなんぞ俺がこの星から追い払ってやるとも!』 大口を叩くグレンファイヤーに、ミラーナイトが肩をすくめた。 『よく言いますね。火竜山脈の中腹に、頭から突っ込んだ姿勢のままずっと気絶してたのは どこのどなたですか?』 『あぁッ!? ミラーちゃん、それ言わないでって言ったじゃねぇかよぉ!』 恥ずかしい事実をバラされ、うろたえるグレンファイヤー。そこにジャンボットのお叱りが飛ぶ。 『貴様、こちらはずっと心配していたのに、そんな理由で姿を見せなかったのか! 不甲斐ないにも 程があるぞ!』 『不可抗力だっての~。大目に見てくれよ焼き鳥』 『私の名前はジャンボットだ! 別宇宙に来てまでそれか!』 『ハハハ。やっぱりこうじゃないとな』 グレンファイヤーとジャンボットのやかましいやり取りをながめて、ゼロがほがらかに笑った。 しかし、穏やかな空気は長く続かなかった。アンリエッタたちが目を覚ましたのだ。 「ウェールズさま……。ああ……」 目を覚ましたアンリエッタは、横たわるウェールズの亡骸をひと目見て、顔を両手でおおって 泣き崩れた。我に返って、自分のしでかしたことの重大さを理解したのだ。 「わたくし、なんてことをしてしまったのかしら。わたくしのせいで、多くの犠牲が……。 わたくしは女王失格だわ……」 反省し、嘆くアンリエッタの様子を、ルイズやゼロたちが一様に、悲しみの混ざった目で見つめていた。 彼らに怒りはない。アンリエッタに罪がなかった訳ではないが、心の弱さは誰にでもあるもの。 本当に罪があるのは、その弱さに利己心でつけ入る者たちだ。憎むべきは、アンリエッタを 利用した者たちの悪しき心だ。 そしてアンリエッタが泣いていると……彼女の悲しい、一途な愛が届いたのか……奇跡が起こった。 「……アンリエッタ? きみか?」 弱々しく、消え入りそうだったが、まぎれもなくウェールズの声がした。皆が驚いてウェールズに 目を向けると、そのまぶたが、かすかに開いていた。 まぶたの間から覗く瞳には、温かみがある。偽物の命にはなかったものだ。『虚無』が消えていたはずの 生命のともし火にわずかの輝きを与えたのかどうかは定かではないが、確かに本当のウェールズの命が この時に戻っていた。 「ウェールズさま……。なんということでしょう。おお、どれだけこのときを待ち望んだことか……」 アンリエッタや、ルイズたちがウェールズの下へ駆け寄る。アンリエッタの目からはまだ涙が 流れていたが、それは悲しみのものではなく、感涙に変わっていた。 だが、奇跡の再会の時間は短いようだった。ウェールズの胸元に赤い染みが広がる。偽りの 生命によって閉じられていた、ワルドに突かれた傷が開いたのだった。 アンリエッタは慌てて傷をふさごうと水の魔法を掛けたが、残酷なことに、通用しなかった。 血の染みは大きくなるばかり。 「無駄だよ……、アンリエッタ。一度死んだ肉体は、二度と蘇りはしない。ぼくはちょっと、 ほんのちょっと帰ってきただけなんだろう。もしかしたら水の精霊が気まぐれを 起こしてくれたのかもしれないな」 「ウェールズさま、いや、いやですわ……、またわたくしを一人にするの?」 「アンリエッタ。最後のお願いがあるんだ」 「最後だなんて、おっしゃらないで」 「きみと初めて出会った、あのラグドリアンの湖畔に行きたい。そこできみに約束してほしいことがあるんだ」 ゼロがこっそり才人の姿に戻った直後に、タバサがシルフィードを引っ張ってきた。一行は ウェールズを運んでシルフィードの背に乗り、ラグドリアン湖を一路目指した。 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーもアンリエッタとウェールズの結末を 見届けるために、その後を追いかけていった。 三人の巨人に見守られながら、ラグドリアンの湖のきらめきを、ウェールズとアンリエッタが見つめる。 うっすらと空が白み始めている。朝が近いのだった。 ウェールズの時間は、もう残り少ない。彼は最後の力を振り絞って、アンリエッタに告げた。 「誓ってくれ、アンリエッタ」 「なんなりと誓いますわ。なにを誓えばいいの? おっしゃってくださいな」 「ぼくを忘れると。忘れて、他の男を愛すると誓ってくれ。その言葉が聞きたい。このラグドリアンの湖畔で。 水の精霊を前にして、きみのその誓約が聞きたい」 「無理を言わないで。そんなこと誓えないわ。嘘を誓えるわけがないじゃない」 アンリエッタは、立ち尽くした。その肩が震える。 「お願いだアンリエッタ。じゃないと、ぼくの魂は永劫にさまようだろう。きみはぼくを 不幸にしたいのかい?」 「いや。絶対にいやですわ」 「時間がないんだ。もう、もう時間がない。ぼくはもう……、だから、お願いだ……」 アンリエッタとウェールズの押し問答を遠巻きに見つめながら、ルイズは声を殺すようにして泣いていた。 「やっとの再会なのに、これでおしまいなんて、あんまりだわ……。ゼロ、どうにかウェールズさまを 助けられないの? あなたには、命を共有する力があるんでしょう? その力でウェールズさまの命を 再生できないの?」 ルイズは、才人の中のゼロに助けを求める。ゼロは才人との邂逅の際に、誤って死なせてしまい、 そのお詫びに彼の命が再生する時まで、自分の命を分け与えていることは聞いていた。ゼロと才人が 一体化している最大の理由だ。 しかし、現実は非情だった。ゼロから断られてしまう。 『すまないが、今は不可能だ。もう才人と同化してるからな。ウェールズまで入れたら、 短時間の内ならともかく、ずっとそのまんまだと才人とウェールズの精神が混ざり合ってしまう。 そうなったら、結局誰も報われない結果になっちまう……』 「そんな……」 ウルトラマンの地球人との一体化は、一度に一人きりと限られている訳ではない。ジャック、 エース、ヒカリは一度に二人の地球人と同化したことがあるし、メビウスに至っては五人同時を やったことがある。しかしこれらの例の時は、ジャックたちは片方の地球人と完全に同化していたし、 メビウスは戦闘中の短い時間のみだった。だから同化した地球人たちに何の影響も出なかった。 ウェールズを救うためには、かなりの期間同化しなければいけないことは明白。だがゼロが それをしたら、才人とウェールズの精神がゼロの中で影響を及ぼし合って、最終的に二人の境界が なくなる危険が大きい。そして、才人の命の回復はまだ完了していない。 一度に助けられるのは一人だけ。ウェールズを助けるには、才人を捨てる必要がある。 ルイズにそれが選べるものか。 「奇跡に、二度目はないのね……」 ルイズが絶望して目を伏せる。才人とゼロも悔しさを顔に浮かべた。ミラーナイトとジャンボットも、 目の前で消えゆく命を救えないことが口惜しくてうなだれる。 だが、たった一人だけ、グレンファイヤーだけは、諦めてはいなかった。 『らしくないぜ、ゼロ! 俺たちはどんな時も、最後まで諦めねぇ! そうじゃなかったか!?』 『えッ!?』 ゼロやミラーナイト、ジャンボットが驚いてグレンファイヤーへ振り返った。ジャンボットが問い返す。 『しかし、私たちにあの彼にしてやれることは、何もないではないか』 『何もない? それは違うぜ焼き鳥! このグレンファイヤーには、たった一つだけあいつを 助けられる手段があるんだ! よぉーし行くぜぇーッ!』 その手段を早速実行に移すグレンファイヤー。ファイヤーコアを再度燃え上がらせると、 ミラーナイトが何かに勘づいたようで、驚きの目を向けた。 『グレン、あなたまさか……!』 『ファイヤァァァァァ――――――――――――!!』 掛け声とともに、全身が炎に変わったグレンファイヤーが、ウェールズ目掛け飛び込んだ。 炎は先に行くほど縮小していき、人間程度の細さになると、ウェールズの肉体に潜り込んだ! 「うッ!?」 「ウェールズさま!?」 突然の出来事に、アンリエッタやルイズたちが目を丸くする。炎が全て吸い込まれると、 ウェールズは仰向けにばったりと倒れた。とうとう限界が来て命が消えてしまったのかと、 大きく動揺するアンリエッタ。 しかしウェールズは、すぐにムクリと身体を起こした。 「ウェールズさま……」 安堵してほっと息を吐くアンリエッタ。が、 「……よっしゃぁぁぁぁーッ! 成功したぜぇぇぇぇーッ!」 「えぇッ!?」 ウェールズが唐突に叫んで大きくガッツポーズを取ったので、ガビーンと仰天してしまった。 理知的で穏やかな気質の彼からはとても考えられない行動だ。 「な、何なに? 何が起こったの? 皇太子、どうしちゃったのよ?」 「理解不能……」 キュルケやタバサのみならず、ルイズに才人も呆けていると、場に人間大の大きさに小さくなった ミラーナイトが降り立った。彼はすぐに、ガッツポーズを取ったままのウェールズに振り返って、 声を掛けた。 『やっぱり……。グレン、あなたその人の中に入りましたね』 「おう! その通りだぜミラーちゃん!」 「えええええええええ!?」 ミラーナイトへぐっと親指を立てるウェールズの様子に、ルイズたちは奇声を上げた。 何と、今のウェールズの意識は、グレンファイヤーのものだった。その証拠に、瞳の色が 本来の碧眼から、ルビーのような紅い、グレンファイヤーの色に変わっている。ウェールズであって ウェールズでない、グレンウェールズとでも言ったところか。 グレンファイヤーはゼロに代わって、ウルトラマンの能力である一体化能力を模倣し、 ウェールズと同化したのだ。それにより、今のウェールズの肉体の中に二つの命が宿ることになった。 「いやぁ~、本来俺の能力じゃないし、やったことないから上手く出来るか正直不安だったんだけどな。 けどまぁ無事に成功! 何でもやってみるもんだな!」 グレンウェールズは、事態が呑み込めずに呆然と立ち尽くしているアンリエッタに向き直って、 ニカッと笑いかけた。それから髪をかき上げる。当たり前だが、グレンファイヤーの時と違って 火炎は出ない。 「えっと、あんたアンリエッタ女王様だっけか? これでもうひと安心だぜ! 俺、グレンファイヤーが 同化したことで、こいつの命はギリギリのとこでつないだ。もう死ぬことはねぇぜ。ほら」 シャツを開いて胸元を見せると、ワルドに受けた大きな穴が綺麗さっぱり消えていた。 それを見て、アンリエッタはまだ完全に理解した訳ではないが、ウェールズが助かったことだけは 分かってまた感涙した。 「ああ……ウェールズさまを助けてくれたんですね! ありがとうございます! 一体、 何とお礼を申し上げればよいものか……!」 「いいってことよ! 見返りのために人助けしてるんじゃねぇからな!」 カンラカンラと笑うグレンに、ミラーナイトが問いかける。 『それで、その方、ウェールズさんの意識はあるんでしょうか?』 「おっと、そうだったな。おーい、ウェールズさーん。聞いてたら返事しなー」 自分に向けて呼びかけるグレン。珍妙な構図だが、まぁいいだろう。しばらく返答を待っていた グレンだが、残念そうに顔を上げる。 「駄目だな。命の鼓動は確かに感じるんだが、意識は全く感じねぇ。完全に眠ってる状態だな。 まぁ死んでたのが奇跡的に蘇ったんだし、無理もねぇのかもしんねぇけど。命だって超弱々しいしな」 『そうですか……。それだと、彼の意識が蘇るのは、大分時間が掛かるかもしれませんね。 いつになることか……』 ウェールズの意識は闇に沈んだままと知り、アンリエッタは再度悲しんだが、先ほどまでの比ではなかった。 「まぁ悲観すんなよ。いつかはこいつが完全復活すんのは確かなんだし、気長に待ちな」 「そうですね……。二度目の奇跡なんですもの。贅沢を言っては、始祖ブリミルに怒られてしまいますね」 微笑むアンリエッタ。その顔からは、大分悲しみが薄れていた。それを見て取り、ルイズたちも 胸を撫で下ろす。 そしてグレンは、アンリエッタに呼びかける。 「さてと、さっきの誓いはこれでなしだが、その代わりに誓ってはくれねぇか? 女王さん」 「はい! 何なりとおっしゃって下さいまし!」 「もう、悪党どもの誘惑に心惑わされんのはなしにしてくれ。心を強く持って、自分の使命を果たすんだ。 ウェールズも本当は、それをしてほしかったんだと思うぜ」 グレンの頼みに、アンリエッタは、涙をぬぐって力強い、晴れ晴れとした面持ちで固くうなずいた。 「誓います。わたくし、アンリエッタ・ド・トリステインは、もう迷わずに、トリステイン 新女王としての職務を、全身全霊で果たします。もう……迷いません」 アンリエッタの高らかな誓約の言葉が、ラグドリアンの湖畔に響き渡った。 朝日は完全に昇り、闇を払って、アンリエッタやルイズたちの姿をまぶしく照らしていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9345.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百八話「MONEY DREAM」 宇宙商人マーキンド星人 登場 才人たちがタバサを救出するためにガリアへ侵入する手筈を整えていた頃、当のタバサは ガリア王国のアーハンブラ城に身柄を移されていた。エルフの土地である“サハラ”との 国境近くにある、ガリアの古城だ。タバサの母も同じ場所に連れられてきていて、眠らされていた。 現在のタバサは、杖は取り上げられているものの、虜囚の身になったとは思えないほど 自由にされていた。だが、城より外へ逃げ出すことは出来ない。城に在中するガリアの兵士たちに、 そして何より、タバサを下したエルフ――ビダーシャルに監視されているからだ。 ビダーシャルは何らかの目的があり、ガリア王ジョゼフに協力しているという。そしてビダーシャルは、 ジョゼフの要望により、母の心を狂わせた薬を作成中であった。――もちろん、タバサに飲ませるものだ。 このままだとタバサは、後十日ばかりで、死んでいるのと変わりないような状態にされてしまうのだ。 そうと分かっていながらタバサは、既にあきらめの境地にあった。万全の状態でもまるで 歯が立たなかったエルフ相手に、母を連れての脱走が出来るはずがない。逃げたシルフィードが 才人たちに助けを求めに行って、彼らが自分を助けようとガリアという大国を敵に回してしまう のではないかということだけが唯一の心配事であった。 タバサは自分に残されたわずかな時間を、眠ったままの母と一緒にいることに費やすことに決めた。 母のベッドに腰掛け、ビダーシャルの持ってきた本の一冊のページをゆっくりとめくっていく。 『イーヴァルディの勇者』。ハルケギニアの平民の間で広く読まれている冒険活劇だ。 自分も、イーヴァルディのようにいくつもの冒険をしてきたものだ。だがその幕切れは こんな形であった。ファルマガンとジルとの約束を果たせなかったことは残念であるが、 最早どうしようもなかった。 タバサは己の経験した冒険を回想した――。 今度のタバサの任務は、いつものような荒事ではなかった。ガリアのベルクート街に新しく 出来た賭博場に、貴族平民問わず多くの人間が入れ込んでいるのだという。その中には王宮で 働く者も少なくなく、賭け事に熱中してろくに働かなくなる者が日に日に増加していき、 しわ寄せを食らっている王宮が悲鳴を上げているとのこと。その問題の賭博場の人を惹きつける カラクリを暴き出し、潰してくるのがタバサに与えられた使命であった。 そしてタバサは、ド・サリヴァン伯爵家の次女、マルグリットと名を偽って、問題の賭博場に 臨もうとしていた。 「おねえさま、今度の任務は荒っぽいのじゃなくてよかったってシルフィ思うの。おねえさまが 怪我しないのは、シルフィにも嬉しいことなのね!」 最近のガリア貴婦人の間で流行している男装姿のタバサにつき従う、次女の格好のシルフィードが ウキウキしながらそう言った。 「怪しい賭博場の秘密を暴け、ってことだけど、どうせそんな場所に大した秘密なんてないのね。 人間なんて欲望にコロッと流されちゃうものだし、みんながみんな遊び好きのろくでなしってだけ なのね。あッ、もちろんおねえさまは別よ? で、そんなお馬鹿さんを引っかけるつまんない カラクリを暴き出すことくらい楽勝なのね~、きゅいきゅい」 上機嫌にまくし立てるシルフィードだが、極秘の任務の内容を口に出すわ、人間として不自然な ことを並べるわ、とひどいありさまなので、タバサに杖でポカポカ叩かれた。 「いたい、いたいよう」 「静かに」 「ごめんなさい。ごめんなさい。もうしゃべらないのね。きゅい!」 そんなこんなでやってきた場所は、一軒の宝石店。しかしそこが件の、地下賭博場の入場口なのであった。 タバサは事前情報にあった合図を示すことで、宝石店から地下へ続く秘密階段を下り、 賭博場の扉の前まで来た。 横の小さなカウンターの前に立つ黒服の執事が、タバサに恭しい態度で告げた。 「貴族のお客さまでいらっしゃいますか。では、こちらで杖をお預かりします」 隣に立った、シルフィードが、心配そうにタバサの顔を覗き込む。杖を預けることは、 雪風のタバサがただの女の子になってしまうことを意味しているのだ。 タバサは、動じた風もなく、杖を執事に渡した。 ドアマンが扉を開くと、中からどっと、眩い光と人々の喧騒、酒とタバコの匂いが溢れてきた。 「地下の社交場、“天国”へようこそ!」 入り口をくぐったタバサに、きわどい衣装に身を包んだ女性がしなだれかかった。接客係のようだ。 「まあ! こんなお小さいのに! 坊ちゃん、誰かの付き添いで来たの?」 タバサは首を振った。 「あら、よく見たら、女の子じゃないの! どこの商家のお嬢ちゃんだい? どっちにしろ、 ここは子供の来るところじゃないよ!」 女がそう叫んだら、奥からでっぷりと太った中年男性が現れた。人当たりのよさそうな 商人風だが、目が笑っていない。 「ばかもの。貴族のお嬢様と、商人の娘を間違えるな」 男は女を叱りつけると、奥へと下がらせた。 「接客係の失礼をお詫び申し上げます。当カジノの支配人である、ギルモアです」 タバサは男に関心を払わずに、辺りを見回した。サイコロ、カード、ルーレット等、様々な賭け事が 絶えず行われ、大勢の人間が群がっている。情報の通りの賑わい具合であった。 「どうしてこんな地下にカジノを造ったのだ? といった顔をされてますな? いやなに、 こんな商売をしている内に、顔色で思っていることが分かるようになりましてな」 ギルモアという男が言葉を続けた。 「知っての通り、カジノは合法ですが、賭け金に上限が定められています。しかし当カジノは、 裕福な商家の旦那様や、名のある貴族の方々にも満足いくような賭け金を設定させていただいて おるのです。従ってこんな細々と営業させていただいている次第。そして当カジノは、他の賭場には ない特色がもう一つあります。――お客さまにいつまでもお遊びいただけるシステムをご用意しております」 初めて、タバサがギルモアに顔を向けた。 「ご興味を持たれましたな。そのシステムというのは、賭博とは別に、少々の労働と引き換えに 資金を稼げるというもので、これ故に当カジノに来られるお客さまは、たとえ賭けに失敗されても、 いつまでもお財布の底が尽きないのでございます。まさにこの世の“天国”! 夢のような場所と 自負しております」 そうやっていつまでも客を離さないのが、このカジノの秘密の一つか。だが、その「少々の労働」とは どういうものなのか? 「まぁ詳しいことは、後でのお楽しみということで……」 まずは賭け事を始めろ、とギルモアは暗に言っていた。だがその前に、タバサに一つ尋ねた。 「安心が第一の当カジノ故、慎重を期すために、お名前を伺っております」 「ド・サリヴァン家の次女、マルグリット」 「ありがとうございます。マルグリットお嬢さま、今日はどのようなゲームでお遊びですかな?」 タバサが選んだのは、サイコロを使った賭博だった。それが、タバサの魔法も暴力も使わない 冒険の始まりだった。 タバサは始めの内は、レートの下限ギリギリを黙々と張っていた。しかし十五回目の勝負で、 ディーラーの手つきを微妙な動きを見切ったことで大金を張り、見事に勝利した。そんなことを 繰り返して、タバサは数時間後にはチップの山を積んでいた。周りの人々が自分の賭け事を忘れ、 ギャラリーを作ったほどだ。 夜も更け、最初百エキューだったのがおよそ一万数千エキューのチップになった頃に、 ギルモアが揉み手をしながらやってきた。 「お嬢さま……これはこれは大変な大勝でございますな。さて、そろそろ夜も更けてまいりましたが……」 どうやらタバサは店の予想以上の大勝をしたようだ。このまま勝ち逃げされては困る、 との響きが混じっている。ここからが本当の勝負ということであった。 「続ける」 と返すと、ギルモアの目がわずかに細くなった。指をぱちん、と弾くと、サイコロのシューターが ほっとしたような顔で奥へ消えていった。 「申し訳ありませんが、このテーブルは、シューターが体調を崩してしまったので、お開きと させていただきます。さて、そろそろ小さな賭け額にも飽きた頃ではございませんか?」 ギルモアの持ちかけてきた勝負をもちろん受けるタバサだが、その前に集中力を回復するための 休憩を申し出た。 豪奢な別室に通されたタバサに、ついてきたシルフィードがヒソヒソ声で尋ねかけた。 「それでおねえさま、肝心のここを潰す方法って思いついたの?」 コクリ、とうなずくタバサ。 「この賭博場は、間違いなく、何らかのイカサマをしてるはず。それを見つけて、客たちに教える。 それで終わり」 タバサは賭けをしながら、カジノの様子を観察していた。その結果分かったのは、今のタバサのように、 大勝をした客はギルモアたちに目をつけられ、個室での賭けに誘い込まれた。そして誰も戻ってこなかった。 何故戻ってこないのかまでは分からないが……勝ち負けが決まっているギャンブルなどありはしない。 それはつまり、ギルモアは確実にイカサマをしているということだ。 「なるほど。で、おねえさまは、早速そのきっかけを見つけたって訳ね?」 タバサが今度は首を横に振ると、シルフィードはため息を吐いてタバサの頭をぐりぐりとかいぐり回した。 「お前はほんとに使えない小娘ね。ちゃっちゃと任務を終わらせて、買ったお金でシルフィに お肉を買うのが裏の任務なのね。では、シルフィが何とかしてあげるのね! イカサマとやらを 見つけてあげるのね! きゅい!」 タバサはシルフィードをじっと見つめると、言い放った。 「あなたには無理。今回は頭脳戦」 「それはつまり、シルフィの脳が足りてない、と言いたい訳なのね?」 「そうは言ってないけど、近い」 きゅいきゅいきゅい! と抗議の声を上げるシルフィード。 「こ、この、古代種のシルフィを捕まえて、足りてないとは上等なのね!」 「……ゲームでイカサマを見つけることは、いつもの戦いとは全く違う」 「シルフィだって、お役に立ちたいのね」 「気持ちだけもらう。大人しくしてて」 「なによなによ。バカにして。つまんない! つまんない! ちょっと散歩でもしてくるのね!」 気分を害したシルフィードが廊下に出ていった後で、外から扉がノックされた。 「誰?」 「給仕のトマです。お嬢さま、飲み物を持って参りました」 「入って」 ドアが開き、スマートな青年が入ってきた。しかし彼は、ワインの壜とグラスをテーブルに置いても、 部屋を出ていかなかった。 「失礼とは存じますが……お嬢さまは、名家のお生まれではないですか?」 と問うたトマの切れ長の目には、タバサは覚えがあった。わずかなタバサの変化を、 トマは見逃さなかった。 「お久しぶりでございます。シャルロットお嬢さま」 「トーマス」 「そうでございます。オルレアンのお屋敷で、コック長を務めさせていただいていたドナルドの息子、 トーマスでございます。シャルロットお嬢さまが、あの扉から現れた時には、跳び上がるほどびっくり致しました」 タバサの頭に、懐かしい記憶が蘇った。トーマスは手品が得意で、シャルロットはそれを見て いつも朗らかに笑っていた……。 昔懐かしいトーマスは己の来歴を語った。オルレアンの家が取り潰しになった後は、使用人も 散り散りとなり、トーマスも父を亡くしてからごろつきのような暮らしを送っていたが、ギルモアに 拾われてここで働くようになったのだという。 「さて、そんなお懐かしいお嬢さまに、ご忠告です」 「忠告?」 「はい。ここに先ほどのチップの九割を手形に変えたものを持って参りました。これをお持ちになって、 裏口より逃げて下さいませ」 「どうして?」 「さる事情があって、それは言えませぬ。ただ、この後のゲーム、お嬢さまは決して勝てない 仕組みになっております」 「理由を教えて」 トーマスの目の色に嘘はなかったが、それでもタバサは理由を求めた。トーマスは困ったように 首を振ったが、タバサが納得しないと思ったのか、話し始めた。 「この賭博場は……店名にあるような“天国”とは言えませぬ。むしろ……」 「むしろ?」 「……いえ、言葉が過ぎました。たとえるならば、喜捨院なのです。富んでいる者から金を巻き上げ、 貧しい人々に配る目的で作られた賭博場なのです。従って、お金をお持ちの方は必ず負ける、そういう 構造になっております」」 「誰が作ったの?」 「ギルモアさまでございます」 あの欲深そうな支配人が、トーマスの言ったような喜捨院を作るとは思えないが……タバサは 口には出さなかった。 「そのような訳で、勝った一割は、貧しい者への施しとお諦め下さいませ。残りは私の裁量にて お返し致します。それでご勘弁下さいませ」 トーマスは心からタバサを心配してそう配慮してくれたのだが、儲けて帰るのがタバサの 目的ではない。彼には悪いが、タバサはその後のギルモアとの賭け勝負に挑んだのであった。 だが、万全の心構えで挑んだにも関わらず、タバサはギルモアの仕掛けたイカサマのタネの、 糸口も見つけることが出来なかった。単純なカードのゲームで、カードに仕掛けは見当たらず、 カードを切る役もゲームの場所選びもタバサがやったにも関わらず、タバサは負け続けた。 一時間も経たずに、タバサは先ほどの勝ち分を全て溶かしてしまった。 タバサのチップを全て奪ったギルモアは、至極満足げに告げた。 「さて、お嬢さま。どうやらチップがなくなってしまったようですが……これ以上お続けに なるのなら、新たにチップを買っていただかなくては」 タバサは首を振った。 「おやおや、それではゲームは続けられませんな。しかしご安心を! このような場合に、 私めが先ほど申し上げた『システム』がご有用となるのです」 とギルモアが言った途端、トーマスの表情が一気に青ざめた。 「ぎ、ギルモアさま。マルグリットさまはまだ幼くいらっしゃいます。あの『仕事』をお勧めするのは……」 「控えろ、トマ。それをお決めになるのはお前ではない、お客さまだ。さてお嬢さま、新しくチップを お買い求めなさるためのお仕事を受けられますかな?」 ギルモアの申し出に、タバサは迷うことなくうなずいた。 イカサマのタネを暴けないのは非常に悔しいが、その『仕事』なるものの正体も確かめなければ なるまい。……トーマスがあんな反応をしたのだ、真っ当なものではない。 「結構でございます。ではお嬢さま、ご案内しましょう」 ほくそ笑むギルモアと、力なく肩を落とすトーマスにタバサがついていこうとした時、 それまでどこに行っていたのか、シルフィードがようやく駆け戻ってきた。 「おねえさま、待って!」 「おやおや、お連れさまではございませんか。彼女もご一緒されますか?」 タバサはシルフィードとギルモアを見比べ、シルフィードに向かって言いつけた。 「黙ってついてきて」 シルフィードは何かを伝えようとしていたが、タイミングが悪い。今はカジノの秘密を 確かめるのを優先した。 「でも、おねえさま! シルフィはさっき……」 「今は大事な局面。後で聞くから」 タバサがじっと目を見据えると、シルフィードはしぶしぶ押し黙った。 「お話しは済みましたでしょうか? それではこちらです」 ギルモアが先導していった先は、地下カジノの更に地下に続く階段。それを下りた先の、 絢爛としたカジノとは打って変わって寂しい光景の地下室に待っていたのは、四角いレンズの 眼鏡を掛けた一人の男だった。 「おっと、ギルモアさん。また新しいお客さまですか? おやまぁ今度は随分と小さいお嬢さんで」 「うむ、ド・サリヴァン家のマルグリットお嬢さまだ。例によって、ここから先の案内を頼むぞ、タマル」 タマルと呼ばれた男は、ギルモアと対等の立場のように会話をしていた。カジノの先にある 地下室を担当しているようだが、カジノの業務員ではなく外部の人間らしい。 「はいはいかしこまりました。それではお嬢さま方、ここから先の作業場に関してはこの不肖 タマルがご案内致します」 ギルモアから任されたタマルが、どこかおどけたような態度でタバサたちにお辞儀した。 「それでは早速、ご説明をば。上でおおまかな説明をお聞きになったとは思いますが、ここより先で していただくのは賭けではありません。対価を得るための労働でございます。なぁーにそんな難しいことを させたりはしませんとも。ここで稼いだ賃金は、そのまま自分のものにするのも良し、上のカジノで またお遊びなさる資金にされるのも良しでございます。まぁ、ほとんどの方はカジノに舞い戻られますがね」 弁舌を振るいながらタマルは、タバサとシルフィードを一つの扉の前まで連れてきた。 「作業の内容は二種類ありまして、どちらを選ぶかはお客さま次第でございます。賃金は安いけれど 『リスク』のないお仕事と、高いけれど『リスク』のあるお仕事」 「危険(リスク)……?」 タバサとシルフィードは怪訝な顔となった。 「まぁまぁ大したものではありませんけどね。ご覧になってからお決めになって下さいな。 それではこの扉の先で行われているのが前者の、安いけれどリスクのない仕事でございまぁす」 タマルが扉を開けた先に広がっていた光景は……タバサたちに目を疑わせるようなものだった。 広い部屋の奥に巨大な鋼鉄の装置が鎮座していて、それからは太いコードが何本も伸びている。 備えられた三つのガラス窓から見える輝きは……火だろうか? 博識のタバサでも、その装置が 何なのかは皆目見当がつかなかった。 そして装置の周りに、全身を覆うハルケギニアには見られないような材質の服で身を包んだ人たちが、 何らかの作業を行っている。どうやら、装置を組み立て拡張する作業のようだ。 「基本的には、あれを作る仕事でございます。この仕事は主に平民がやってますね。カジノとは 関係ない、地上で職にあぶれた方々も招いて働いてもらってるんですよ。やっぱり人間、働いてないと いけませんからねぇ」 「えッ、ちょっと……『あれ』は何なの?」 唖然としているシルフィードが尋ねたが、タマルは意外そうに聞き返した。 「おや、知ってどうなさいます?」 「い、いや、何なのかも分からないで作るなんておかしいのね」 「左様ですか? そのようなことを言われたのは初めてですがねぇ」 タバサとシルフィードは思わず目を合わせた。 「まぁこの仕事は肉体労働なので、元より貴族の方には人気がないですし、お嬢さまの体格的にも 向いてないですね。お二人には、もう一つの方をお勧めします。お若いし打ってつけですよ」 ここでの説明を適当に切り上げ、更に奥の部屋へ案内していくタマル。だがその途中で、 タバサが呼び止めた。 「待って」 「おや、まだ何か?」 「……さっきの装置は、どこの国の技術が用いられてるの?」 「ああ、それはゲルマニアの最先端の工業技術で……」 「嘘」 タマルの言葉を、きっぱりとさえぎるタバサ。 「ゲルマニアの友人がいるから分かる。ゲルマニアの工業力でも、あれほどのものを作れるとは 考えられない。……あなたは、ハルケギニアの人間じゃない」 ハッと息を呑むシルフィード。一方で、タマルは面白そうに口の端を吊り上げた。 「お嬢さまは鋭いですねぇ。私の正体に自力で気がついた人は、あなたが初めてですよ」 そう言ったタマルの半身が歪み……一瞬だけ昆虫型の怪人のものとなった! タバサの推察通り、タマルはハルケギニア人ではなかった。はるか宇宙の彼方よりやってきた、 マーキンド星人という種族である。 「おねえさまッ!」 咄嗟にタバサを背でかばうシルフィード。今の杖のないタバサでは、宇宙人には太刀打ち出来ない。 しかしタマルに攻撃の意思はなかった。 「おっと何か勘違いされてるようですが、あなた方に危害を加えるつもりなんてこれっぽっちも ありませんよ?」 「え?」 「私はその辺の粗野な侵略者とは違う、生粋の商売人でございます。正体を知られたから、 何かする気なんて毛頭ありませんよ。素性なんてものは商売に関係ありませんでしょう? 砂漠の国境付近では、エルフとも貿易が行われてるではないですか」 知った風な口を利くマーキンド星人だが、タバサたちは警戒を解かない。それで肩をすくめる マーキンド星人。 「まぁそう固くならないで、商売の話に戻りましょう。いよいよこの先が、お嬢さま方に お勧めする、賃金が高いけれどリスクのあるお仕事でございますよ」 突き当たりの、二つ目の扉を開くマーキンド星人。その先に見えたものに――タバサたちは、 今度は言葉を失った。 部屋には大きなドーナツ状の円卓があり、その周囲に大勢の人間が椅子に座ってぐったりと 力を失っている。そして円卓の中央には……黄色く輝く巨大なエネルギーが浮遊していた。 エネルギーの塊は、ここにいる人間たちから吸い出されたもののようであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9127.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十話「チュレンヌの繭(前編)」 円盤生物ブニョ コイン怪獣カネゴン 登場 『マグマ星人どもも、ウルティメイトフォースゼロに敗れ去ったか……』 空を飛ぶ国アルビオンに建つ、レコン・キスタの本拠地の城の、皇帝クロムウェルの居室。 今は侵略者たちの拠点と化したこの場所で、クロムウェルの姿を取っているヤプールの手下と シェフィールドが、空間を割ってわずかに顔を見せているヤプール人に謁見していた。 『全く、あまりにも不甲斐ない連中だ。あれだけ手間の掛かる計画を用意し、五機ものロボット怪獣を くれてやったというのに、結局何一つ成果を上げられなかった』 「全くですな。どいつもこいつも、口だけが達者の役立たずにございます」 ヤプールが嘆息すると、クロムウェルが迎合した。 「そろそろ宇宙人連合などという、捨て石連中を送り込むのはおやめになっては如何でしょうか。 労力の無駄です。私めに命じて下さいますれば、すぐにも地上を地獄に変え、支配者様に極上の マイナスエネルギーを献上致しますが……」 と申し出るクロムウェルだが、ヤプールは却下する。 『まだお前の出る幕ではない。超獣たちが育ち切るまで、もう少し時間が掛かるのでな。 その時になったら、お前が指揮を執るのだ』 「仰せのままに。……しかしでしたら、それまでの間には、誰を刺客に送られますのでしょうか?」 『既に用意している。ちょうど、自らウルトラマンゼロ暗殺を進み出る奴が出たところだ。姿を現すといい』 ヤプールが命じると、植木鉢の陰から、緑色の小さい円盤形の飛行物体が飛び出てきた。 シェフィールドはそれを目にして、同じ登場をした先日の刺客、円盤生物を思い出した。 それの生き残りだろうか。 そして円盤は、シェフィールドらの見ている前で、人間の姿に変身した。……が、何故か まっすぐ立たずに、グネグネ身体を不気味にうごめかしている。 「ヤプール殿。この者は、一体何者でしょうか?」 人間の姿を取りながらも怪しい雰囲気を纏う正体不明の男について、シェフィールドが尋ねると、 当人が自ら名乗った。 「ブニョって言うのさ。宇宙人なんだ! ウフフフ……!」 奇怪な動きに合わせるかのように不気味な笑い声を上げる男、ブニョ。今度はクロムウェルが問う。 「えぇい貴様、どうしてそんなに落ち着きがないのだ。支配者様の御前だぞ」 それにブニョはこう答える。 「悪いけど、オイラは力がなくてねぇ。この星の重力だと、これこの通り、身体を支え切れないんでさぁ~」 自慢にならないことを堂々と語り、その度にフラフラとよろめくブニョのありさまに、 シェフィールドはすっかり呆れ返っていた。今まで様々な種類の怪獣、宇宙人がハルケギニアに 出現したが、重力に負けるような奴はこいつが初めてだ。果たして、こんな頼りないものが ウルトラマンゼロへの刺客足り得るのか? その疑念は、クロムウェルも抱いているようだった。彼はヤプールに尋ねる。 「支配者様、お言葉ですが、このような力のない者を送ったところで、何になるのでしょうか?」 するとまたも、ブニョが自らクロムウェルに言い返した。 「力はないが、知恵はある」 「何?」 「今までの連中は、ゼロの変身を許すからいけなかったんだ。その点、オイラは違う。ゼロを 変身できないようにしてから、料理してやりますよ」 「そんなことが出来るのか? その作戦は、既にピット星人が失敗しているぞ」 釘を刺すクロムウェルだが、ブニョは丸で意に介さず、ヘラヘラ笑いながら請け合った。 「なぁ~に任して下さい。じゃ、さいならッ!」 言うが早いや、ブニョは再び円盤形態に変身し、窓から脱け出てトリステインへとまっすぐ飛んでいった。 「あいつめ、本当にやる気か……」 クロムウェルやシェフィールドは正直半信半疑だったが、ブニョを選んだヤプールの手前、 それ以上反対意見は口にしなかった。 話は変わるが、ブニョが刺客として選ばれた前日、トリスタニアの一地域で、少々奇妙な出来事が発生した。 「どけどけぃ! 徴税官、チュレンヌ様のお通りであるぞ!」 「卑しい平民ども、道を開けい!」 「下にー! 下にー!」 人々が行き交い混雑している通りを、下級貴族の一団が無理矢理人波を道の脇に寄せながら通行している。 その一団の中央にいるリーダー格は、でっぷりと肥え太り、嫌らしい笑みを顔に張りつけた中年貴族。 彼の名はチュレンヌ。この周辺区域の徴税官を務めている男であるが、その地位を悪用し、 市民に必要以上の重税を課し私服を肥やす、悪徳貴族の一人だ。しかしそれ以外には これといった悪行をしていないので、平民にとっては逆に始末が悪い。人に害をなすが、 わざわざ討たれるほどでもない、典型的な小悪党である。 「ふふふ。度重なる怪獣災害と侵略者の攻撃で、一時は不景気のどん底だったトリスタニアだが、 近頃はこの辺りにも活気が戻ってきたな」 往来を歩きながら、チュレンヌが取り巻き相手に話し掛けると、一人がごますりするように応じた。 「その通りでございますね。女王陛下主導の復興により、壊された街は修復され、人も戻り、 それに伴って金の回りも戻っている様子です」 「つまり、わたしの仕事もまた繁盛するということだ」 とつぶやくと、チュレンヌは嫌らしい笑みを一層深めた。 「やはり、好景気が一番だ。多少税を水増ししても、平民どもからの不満の声も少なくなるからな」 「チュレンヌ様のお懐も、また温かくなりますな。喜ばしい限りでございます」 普段から平民を卑しいもの、と馬鹿にするが、その実自分たちが最も卑しい性根をしているチュレンヌたち。 すると、チュレンヌが道路の端の日陰にひっそりと開いている、地面の上に布を敷いただけのみすぼらしい 露店に目を留めた。 「やや、あれは……!」 即座に取り巻きをゾロゾロ引き連れながら、その露店の前に詰め寄る。そしてローブを すっぽりと被っていて、顔がよく見えない露天商に呼びかけた。 「おい、そこのお前! 一体、誰の許しを得て露店などを開いている? この付近で商売するには、 このチュレンヌに税を支払わなければいかん決まりであるぞ!」 チュレンヌが脅すと、「カネィダの露店」との看板を出している露天商は、子供のように トーンの高い声で媚を売った。 「お代官様、ご勘弁下さいよ。見ての通り、こっちは物乞いに等しい身分です。とても、 お代官様のお許しを頂けるお金は払えません。それがしの命を助けると思って、どうかお目こぼしを……」 拝み倒すように手をすり合わせるが、チュレンヌは極めつきの拝金主義。金が絡む時には、 一片の人情も見せないのだ。 「駄目だ駄目だ。一人でも例外を認めたら、卑しい平民どもが自分も自分もとうるさくなる。 金を払えないのであれば、どこかよそへ行くがいい!」 「ちぇッ。世知辛いなぁ」 露天商はぶつぶつつぶやきながら荷物を纏めようとするが、それをチュレンヌが制止する。 「おっと待て。税とは別に勝手に店を開いた罰金を払ってもらわなければならん。金がないというのなら、 商品を代わりに差し押さえさせてもらうぞ」 「えぇッ? そりゃあんまりですよぉ」 露天商が泣きつくが、チュレンヌは無視して取り巻きとともに商品を見繕う。だが、どれも ゴミ同然のガラクタばかりだった。 「何だこれは。呆れた。こんなもので商売しようとしていたのか。これでは、取り上げたところで 二束三文にもならんではないか……む?」 ため息を吐いたチュレンヌだが、商品の中に、珍しい物を見つけた。 「これは……シルクか?」 つまみ上げたのは、蚕がよく作る繭。東方から輸入される、絹の原料だ。過去の地球のように、 ハルケギニアでも高級繊維で、原料の繭を目に掛かることは滅多にない。 目の前にあるのは量が少なすぎるので、あまり金にはならなそうだが、代わりのように 中に何か入っているようだった。振ると、チャリンチャリンと貨幣の鳴る音がする。 「中に銅貨か銀貨、いやもしかしたら金貨が入っているようだな。面白いものを持っているではないか。 金運のお守りか何かか。よし、ではこれで手打ちにしてやろうではないか」 金が入っているという点をいたく気に入ったチュレンヌは、その繭を取り上げることに決める。 すると、露天商はニヤニヤしながら言った。 「やめておいた方がいいですよぉ。お代官様のようなお人だと、大変なことになりますよ」 「何ッ!?」 それを愚弄されたと受け取ったチュレンヌは激昂し、取り巻きとともに杖を抜いた。 「貴様、このチュレンヌを馬鹿にするか! 貴様を不敬罪で警邏に差し出してやろうか!?」 「おお、怖い怖い。それじゃこの辺で失敬!」 露天商はおどけた風に荷物を抱えて、風のように逃げ去っていった。 「全く、おかしな奴がいたもんだ……」 憤懣やるしかたないチュレンヌだったが、奪った繭を耳元に近づけて鳴らすと、たちまち 機嫌を直してにんまり頬を緩めた。 太陽が沈み、夜が訪れると、チュレンヌは自身の屋敷に帰宅した。 「ふぅ、今日もたんまり稼いだ」 市民から回収した税金を数え終えたチュレンヌは、寝室に向かう途中の廊下で一人つぶやいた。 違法に財産を増やしてご機嫌顔だが、すぐに顔をしかめる。 「しかし、一番の金づるの妖精亭から巻き上げられなくなったのは痛いな。想定外の出費もしてしまったし…… その分の埋め合わせにはまだほど遠い」 チュレンヌは先日、『魅惑の妖精』という名前の酒場、というより地球でいうところのキャバクラに 近い店に寄ったのだが、そこでアンリエッタの女官を名乗りながら何故かウェイトレスをやっていた少女に 痛い目に遭わされた。彼女に己の悪行をアンリエッタに報告されるのは非常にまずいので、チュレンヌは たまらず口止め料まで払って退散した。少女の目がいつなくなるか分からないので、もう『魅惑の妖精』亭から 金を吸い上げることは出来ないといっていいだろう。 その時に改心すれば、この後の事態も起きなかったのだろうが……生憎、人はそう簡単には変わらないのだ。 「これからは、他のところの税の徴収をより厳しくしないといかんな。それも、あの女官の目に 触れないように……」 悪だくみしながら寝室の扉を開けて中に入ると……目の前に広がっている光景に、思わず唖然となった。 「な、何だこれは!?」 何と部屋の片隅を、巨大な繭が占領しているのだ。どうやら、昼に露天商から取り上げた繭が巨大化したようだ。 普通なら、繭が大きくなるなどあり得ないので警戒することだろう。しかしここにいるのは 守銭奴のチュレンヌ。彼は深く考えずに歓喜した。 「うっほほう! 何故かは知らんが、あの金入りの繭がこれほどの大きさに! もしや、 中の金も増えてるのではないか!? どれ、確かめてみよう!」 魔法で繭に切れ目を入れて、それを広げて中を覗き込む。 「おお、あるある! 金貨に銀貨がザックザクだ! 素晴らしい! 全部で何エキューになるかな……」 すぐに中身を取り出そうと考えるが、ここで違和感に気がついた。どれだけ力を入れても、 身体が繭から抜けない。それどころか、不可思議な力でどんどんと中に呑み込まれていくではないか! 「な、何だ!? ひ、引っ張られていくぅ! た、助けてくれー!」 悲鳴を上げるが、その声は繭のせいでくぐもっていて、衛兵には全く届かなかった。そして、 チュレンヌの肥満体はすっぽりと繭に呑み込まれてしまった。 「ぬわ―――――!!」 翌日。昼頃の時間に、チュレンヌはベッドの上で目を覚ました。 「……ん? わたしは、いつの間に眠って……確か昨晩は、恐ろしい目に遭ったような……」 徐々に思い出して、繭のあった方へ目を向けるが、そこに繭は影もなく、いつも通りの部屋の様子があるだけだった。 「夢でも見ていたんだろうか……。そうだろうな……。よくよく考えたら、あんなことがある訳ないか……」 寝ぼけ眼でベッドから降りると、ちょうどタイミングよく、屋敷のメイドが彼の着替えのために入ってくる。 「旦那様、おはようござ……きゃああああッ!?」 しかしメイドは顔を上げて自分を見ると、すぐに目をひん剥いて甲高い悲鳴を上げた。 チュレンヌは度肝を抜かれる。 「な、何だ!? 何事か!?」 「か、怪物ぅぅぅぅぅッ!」 メイドはクルリと反転し、諸手を上げて逃げていってしまった。突然のことにチュレンヌは、 怒りが湧くより呆気にとられる。 「な、何なのだ、一体……。何年も仕えているメイドだというのに、このわたしを見て怪物とは、 どうしたことか……」 顔に何かついているのだろうかと思って鏡の前に立つと、そこに映っていたのは、普段見る 自分の顔ではなかった。 「な、な、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? 何だこれはぁぁぁぁぁッ!!」 今の自分の姿は、どう見ても人間のものではない。顔は二枚貝のようで目はカタツムリよろしく 突き出ており、胴体は楕円形で肌は銅貨のように赤光りしている。手でペタペタ顔を触ると、 感触からそれが幻ではないことが分かった。 「わ、わたしの身体は、どうなってしまったのだぁッ!?」 すっかりパニックになっていると、寝室に衛兵が押し寄せてきた。メイドが呼び寄せたらしい。 彼らも今の姿のものがチュレンヌだと分からずに、彼に槍を向ける。 「か、怪物め! チュレンヌ様をどこへやった!?」 「よもや、食ってしまったのではあるまいな!?」 「化け物めー! 屋敷から出ていけー!」 「ま、待てお前たち! わたしだ! わたしがチュレンヌなんだ! あ痛ッ! 落ち着け! 話を聞けぇー!」 必死に訴えるチュレンヌだったが、衛兵たちは聞く耳持たず。槍を突き出して、あっという間に チュレンヌを追い出してしまった。 昨晩チュレンヌが口にした店、『魅惑の妖精』亭。そこはスカロンというオネェ言葉の中年男性が 切り盛りする酒場であり、多くの美少女たちによる接客が売りである。こう書くといかがわしい店に 思うであろうし、実際そうではないと言い切れない面もあるが、スカロンと従業員の少女たち自身は、 この商売に真剣な気持ちで向き合っている。トリスタニアが怪獣たちに蹂躙されて街から笑顔が消えていた時も、 スカロンが先頭に立って人々を励まし、無償で物資を被災者に配ったのだ。そういう真摯な心根も、 妖精亭が支持されている要因の一つだろう。 そしてこの店に今、ルイズと才人は厄介になっていた。学院が夏季休暇に入ったある日、 マグマ星人らの陰謀の際に完全に出遅れたことを反省したアンリエッタの命により、平民に扮して トリスタニアの民から種々の情報や噂話を収集する任務に就くことになったのだが、ルイズが 支度金が足りないと抜かしたばかりに、紆余曲折会って一文無しになった挙句にスカロンに 拾われたのだ。今はルイズが店の女の子の一人、才人が皿洗い兼雑用として面倒を見てもらっている。 「一時はどうなることかと思ったけど、ルイズの任務も順調に行ってるみたいで良かったよ」 夜に開く妖精亭の開店準備をしている最中に、厨房からルイズの様子をながめた才人が言った。 傍目からは独り言を言っているように見えるだろうが、実際はゼロと会話している。 『そうだな。ルイズも、まだまだぎこちない感じだが、店に馴染んでるようで何よりだ。 結果オーライってとこだな』 相槌を打つゼロ。ルイズは当初、貴族のプライドからウェイトレスの仕事も任務も中途半端に なっていたが、才人の説得で思い直し、今は真面目に努力してどちらもこなしている。特に酒場は 人々の噂が集まりやすい、任務に格好の場所なので、結果的にはスカロンに雇われたのは幸運と言っていいだろう。 「さて、本日も頑張りますか」 腕まくりした才人が気合いを入れて、準備を進めようとする。その矢先に、ボロ布をすっぽり被って 姿を隠した何者かが、羽扉を開いて妖精亭に入ってきた。 「あら、お客様、開店はまだですよ。もうしばらく待っていただけませんでしょうか?」 それを、スカロンの一人娘で店一番の人気の少女、ジェシカが相手にする。見るからに怪しいが、 こういう店だとそういう人間の来店も時々あるので、慣れた様子だ。 しかし闖入者はこう答えた。 「ち、違う。わたしは客ではない。どうか、助けてほしいのだ。他に行く宛てがない……」 「え?」 さすがにこんなことを言われたのは初めてで、さしものジェシカも面食らった。 「と、とにかく中に入れてくれ……」 闖入者はそのまま店内に入り込もうとしたが、焦っていたせいか、布の端が床に引っ掛かって、 ズルリと脱げてしまった。 そしてその下の、人外の姿が露わになる。 「きゃああああああああッ!? か、怪物よぉーッ!」 「ま、待て! 騒がないでくれ! これには、事情が……!」 途端に店の少女たちが絶叫し、怪物がなだめようとするが、騒ぎを聞きつけたスカロンと 杖を持ったルイズに阻まれる。 「怪獣め! 妖精ちゃんたちには指一本触らせないわよ!」 「一体、どこからやってきたのかしら? それはともかく、とっととここから去りなさい!」 「ま、ま、待って下さいぃ! ホント、怪しい者ではないんです! は、話を……!」 オネェ言葉だが筋骨隆々のスカロンと気の強いルイズはかなりの威圧感を放っている。 怪物は、ルイズの方を見て特に脅えた。 「何だ何だ? どうしたんだ?」 そこに才人もやってくると、怪物をひと目見て、こう叫んだ。 「うわッ!? カネゴン、カネゴンじゃないか!」 「かねごん?」 ルイズたちは、カネゴンが何か分からずに才人に振り返る。一方の腰を抜かしていた怪物、 いや怪獣カネゴンは、才人にすがるように這っていく。 「ぼ、坊ちゃんは、この姿が何かご存知なのでしょうか!?」 「あ、ああ……」 怪獣の顔のアップにやや顔が引きつりつつも、才人はカネゴンの説明をした。 「カネゴンってのは、あー……俺の故郷で、親が子供にするしつけ話に出てくる怪獣だ。 道に落ちてるお金をネコババするくらいの、金にがめつい人間が変身してしまうものなんだって。 その姿、まさしくそのカネゴンだ。俺も、まさか実在するなんて思ってもいなかったよ」 「ちょっと待って。つまり、その怪獣は元人間なの?」 落ち着いたルイズが尋ねると、カネゴンがすっくと立ち上がって答えた。 「そうなんです! わたしの声に聞き覚えはないでしょうか? 徴税官チュレンヌですよ!」 「えええー!? あのチュレンヌ!?」 大声を上げて驚いたジェシカを始めとする女の子たちは、その次にゲラゲラ笑い転げた。 「随分哀れな姿になっちゃったねぇ! 金にがめついと変身するって? あんたにピッタリじゃないか! あははははは!」 「ううう、うるさい! 平民の身分で、貴族のわたしを愚弄するか!?」 チュレンヌ、今はカネゴンが怒鳴るが、それだけでジェシカらに何もしようとしない。 それでルイズが問いかける。 「あんた、杖はどうしたの? まさか、魔法が使えなくなったんじゃないでしょうね?」 カネゴンはうッ、と言葉を詰まらせるが、すぐに返答した。 「実は、そうなんです……。いくら杖を手に呪文を唱えても、何も起こらなくて……。屋敷の者たちも、 わたしがチュレンヌだと信じてくれず、追い出されてしまったのです……」 「なーんだ、じゃあ今はあたしたちと何も変わりないってことね」 カネゴンが無力と分かり、ジェシカは一層強気になる。 「今まであたしたちからお金を巻き上げてた罰が当たったんだよ。いい気味だね。一生そのままで放浪したら? それとも、見世物小屋に就職する方がいい?」 「か、勘弁してくれぇ! わたしは、人間に戻りたいんだよぉ!」 言葉責めを受け、カネゴンは泣き言を吐く。するとスカロンがジェシカをたしなめた。 「おやめなさい、ジェシカ。ここはあたしたちで助けてあげようじゃない」 「え? いいの!? チュレンヌが今まで何したか、忘れた訳じゃないでしょ」 意外そうなジェシカに、スカロンは語る。 「確かにチュレンヌさまは、いいお人とは言えないわ。けれど、今は行く宛てもなく、孤独に 苦しんでいる無力な子羊じゃない。見捨てるのは忍びないわ。ルイズちゃんたちと同じように、 あたしたちで面倒見てあげましょう」 「お、おお、何と慈悲深いのだ! 店長、恩に着ますぞ!」 懐の深さを見せるスカロンに、カネゴンは最早貴族の体裁もなく平伏した。その時、急に腹を押さえて うめき声を上げる。 「う、腹が……!」 「ちょっと、どうしたの?」 才人は何事か察して、目を丸くしているルイズに言った。 「ルイズ、この前にこの人からもらったチップがあったよな? それ、借りるぜ!」 言うが早いや、割り当てられた自分たちの部屋から金貨の入った袋を取ってきて、金貨を一掴み取り出す。 「ほら、こいつでしのぎな」 「あ、ありがたい!」 カネゴンはすぐに金貨を受け取ると――口の中に放り込んだ! その行為に、周りがギョッと目を見張る。 「お金を、食べちゃった!」 カネゴンはそのまま金貨をヒョイパクヒョイパクと食べた。すると0になりかかっていた 胸のメーターの数字が増加する。 「カネゴンの食べ物は、お金なんだ。このメーターの数字がなくなった時が、カネゴンが餓死する時なんだよ」 「意外と怖いことなのね、カネゴンになるのって……」 さすがに命の危険があるとなっては、ルイズたちも見捨てるのが後味悪くなる。ルイズは才人に質問する。 「カネゴンを元に戻す方法ってないの?」 「う~ん……元々がしつけ話だからなぁ。どうやったら元に戻るのかは、全然分からねぇや」 ウルティメイトブレスレットに目を向けるルイズだが、ゼロも否定を返した。 『俺も、カネゴンなんて見るのは初めてだ。どうすればいいのか、見当がつかねぇぜ』 「困ったわね……」 すぐに元に戻す方法は分かりそうにないので、先にカネゴンの処遇を決めることにする。 スカロンが告げる。 「とりあえず、当面チュレンヌさま――カネゴンちゃんにはサイトくんと同じく、このお店でお掃除、 お皿洗いでもしてもらいましょう。自分の食べるお金は、自分で稼いでもらわないと」 「う、ううむ、仕方ないか……」 貴族のプライド故か嫌そうなカネゴンだが、今の状態ではわがままを言っていられない。 しぶしぶと了承した。 「ルイズちゃんとサイトくんは、悪いけどカネゴンちゃんが元に戻る方法を一緒に探してあげてね。 そういえば、近くによく当たる占いのお店が出来たそうだし、そこから当たるのはどうかしら」 「そうさせてもらうわね。図書館とかに行っても無駄でしょうし」 「他のことはおいおい決めるとして、ひとまずはこんなところね。じゃあ、ちょっと予想外のことが 起きたけど、今日も一日張り切ってお仕事しましょう!」 スカロンの仕切りでカネゴンの処遇が決定すると、ルイズたちは滞っていた開店準備に戻っていった。 カネゴンの乱入でひと悶着起きた『魅惑の妖精』亭を、外の物陰からじっと観察している者がいた。 冒頭に出てきた、星人ブニョである。 「……宇宙人反応あり! あそこにいるのがウルトラマンゼロで間違いないな」 ブニョは耳の穴からアンテナを出し、そのセンサーで妖精亭にいる才人がゼロに間違いなしと判断した。 「そうと分かれば、早速作戦の準備だぁ。ゼロめ、せいぜい今の内に人生楽しんでるといいや。 うふふふふッ!」 ブニョは悪知恵を働かせてゼロ暗殺計画を立てると、その用意のために引き上げていく。 相変わらずフラフラしている身体を引っ張って、トリスタニアの裏通りの暗がりに溶け込んでいった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9131.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十一話「チュレンヌの繭(後編)」 コイン怪獣カネゴン カプセル怪獣ウインダム 円盤生物ブニョ 登場 「あ~、う~、うんだらかんたら~」 トリスタニアの裏通り、日中でも日光が周囲の建物に遮られて薄暗いので、怪しい雰囲気を 醸し出す一画に建つ占い屋に足を運んだルイズと才人は、カネゴンとなってしまったチュレンヌを 元に戻す方法を占ってもらっていた。どちらかと言うと祈祷師のような格好の老年女性の占い師は、 怪しい呪文をひたすら唱え続けている。 「……ねぇサイト、こんな怪しい人に頼んで、本当に元に戻す方法が分かるのかしら? どう見ても信用ならない感じなんだけど……」 占い師が長々と呪文を唱えている後ろで、才人と並んで正座しているルイズは、ヒソヒソと尋ねかけた。 魔法学院で勉強している彼女には分かるが、占い師の呪文は全くのデタラメで、何か神がかりな効果が 出るとも思えなかった。 「でも、スカロンさんの話じゃ、よく当たると評判ってことだし……。それに俺たちに出来そうなことは、 占いに頼ることぐらいしかないだろ?」 「まぁ、そうなんだけど……」 カネゴンを元に戻すという、どこから手をつけていいのかもさっぱり分からない難問を前にして、 才人の言うことももっともだとは思うが、それでも半信半疑なルイズであった。 そうこうしていると、占い師が唐突に呪文をやめ、叫んだ。 「見えたッ!」 「占いの結果が、出たんですか!?」 占い師が振り向くと、ルイズと才人は真剣に彼女を凝視した。チュレンヌが人間に戻れるかどうかは、 この次の台詞に懸かっているのだ。 そして、占い師はもったいぶりながら、占いの結果を高々と告げた。 「カネゴンの願いは……緑のぶよぶよが逆立ちした時、叶えられるぞよーッ!」 ルイズも才人も、ガクゥッ! と肩を落とした。 「……もうッ! 結局インチキだったじゃない! お金の無駄だったわ!」 『魅惑の妖精』亭に戻り、カネゴンにスカロンたちに才人が事の顛末を話した後で、椅子にどっかと 荒々しく腰を下ろしたルイズは、苛立ちをぶつけるように吐き捨てた。スカロンは眉をひそめて首をひねる。 「おかしいわねぇ……。常連さんたちが口をそろえて話した情報だから、当てになると思ったんだけど」 「あんな訳の分からない占いが、的中する訳ないじゃない! そもそも、緑のぶよぶよって何よ! 本当、デタラメもいいとこだわ!」 「占いにも、限度があるってことかしらね」 騙されたと思ってすっかり不機嫌になったルイズはわめき、店の女の子たちも落胆した顔になる。 しかし一番失望しているのは、当事者のカネゴンだ。 「一縷の望みが、こんなにあっさり途切れてしまうなんて……。わたしはこのまま、一生人間に 戻れないのか? そんなぁ~!」 頭を抱えて(もっとも、腕が短いので届いていないが)落ち込むカネゴンに、スカロンがそっと声を掛けた。 「まだ諦めるのは早いわ、カネゴンちゃん。ここにいる限り、あなたを飢え死になんてさせないわよ。 そして生きてれば、元に戻る方法が見つかる可能性だって、ゼロじゃないわよ。ひょっとしたらその内、 占いが何か予想もつかないことで実現するかもしれないし。とにかく、希望を捨てずに頑張りましょう。 『魅惑の妖精』亭一同、応援するわ」 「店主……しかし、迷惑ではないのか? メイジでなくなったわたしが、何のとりえもない 役立たずだということくらい、自覚している。現に、わたしはここでの仕事を、失敗ばかりしているではないか……」 昨晩、カネゴンを試しに働かせてみたのだが、チュレンヌは匙と杖より重い物を持ったことがない 典型的なトリステイン貴族。皿洗いも、掃除も、言いつけられることの何もかもに失敗してばかりだった。 給与よりも店への損害の方が大きい始末で、現状は才人たちから金を借りて、文字通り糊口をしのいでいる。 流石に居所が悪いカネゴンに、スカロンは優しく諭した。 「いいのよ、初めはみんなそんなものなんだから、気にしないで」 「そうそう。俺なんかも、同じ感じだったよ。それに昨日は、早速噂になってるカネゴンを ひと目見ようとお客さんが集まってたから、むしろ俺よりも店に貢献してるって」 「そ、そうか? 二人とも、ありがとう……」 才人にも励まされて、カネゴンはしおらしく頭を垂れた。その様子をながめた女の子たちが、 ヒソヒソと話し合う。 「何だかチュレンヌの奴、すっかり大人しくなったわね。人間の時は、あんなに威張り散らして あたしたちに迷惑掛けまくってたのに」 「怪獣に変身しちゃって、気がまいっちゃってるんじゃないかしら。それとも、環境が変わったから、 性格も変わったのかも」 「今の方が、ずっと感じがいいわよね」 そんな中で、ルイズがふとスカロンに尋ねかける。 「ところで、ジェシカはまだ帰ってないのかしら? そろそろ帰ってきてもいい頃合いなのに」 「あら、そうね。あの子ったら、どうしちゃったのかしら」 ジェシカは私用の買い物に出掛けている。それはいいのだが、あまり帰りが遅くなったら、 開店までに彼女の支度が間に合わなくなってしまう。スカロンの娘なので当然、古株のジェシカが そんな初歩的なミスをするとは思えないのだが……。 「もしかして、怪しい奴に絡まれてるんじゃあ……」 才人はジェシカの身を危惧する。人の集まるトリスタニアには、日々良からぬことを企む人間も少なくない。 ジェシカはなかなかに魅力的な女性なので、目をつけられる危険性は高いのだ。 だがスカロンは、才人の言を否定する。 「その線は薄いと思うわ。ジェシカも、トリスタニアの生活は長いもの。怪しい人間を避ける術は ちゃんと身についてるわ。もう少しだけ待ってみましょう。あの子のことだし、きっとその内、 ひょっこり帰ってくるわよ」 と父親が言うので、才人たちはそれに従うことにした。 時間は少々さかのぼる。問題のジェシカは、買い物を済ませて妖精亭に帰るため、裏通りを 進んでいるところだった。 「一個だけ残ってて助かったわ。材料貴重だから、次いつ入荷するか分かんないし」 目当ての香水を、品切れ前に購入できてほくほく顔のジェシカ。日の光があまり届かない裏道も、 ジェシカにとっては勝手知ったる場所なので、スイスイ進んでいく。 しかしその途中で、普段は出くわさないものに出くわした。 「いてててて! あいてててててて!」 「?」 裏通りの端に痩せぎすの男が倒れていて、腹部を抑えて悶え苦しんでいたのだ。見過ごす訳にはいかず、 ジェシカはその男に声を掛ける。 「そこのあんた、随分苦しそうだけど、どうしたの?」 「腹が……腹が痛いんだよ! そこのあんた、助けてくれぇ!」 男は苦悶に彩られた顔を上げ、ジェシカに頼んだ。しかし、こういう場所には、怪我人を装って 不用意に近づいた人間を罠に嵌める輩もいる。それを知っているジェシカは用心し、男から 一定の距離を保ちつつ告げる。 「じゃあ、誰か人を呼んでくるよ。そして病院に連れてってあげるからさ。ちょっと待ってて」 だが、男はそれをよしとしなかった。 「そんなこと言わないで……お嬢ちゃんがこっち来てくれよぉ~!」 突然男の口から長い舌が伸び、ジェシカの細い首に巻きついた! 「きゃあぁッ!?」 流石に舌が伸びるとは思ってもいなかったジェシカはろくに反応できず、首をきつく締めつけられる。 「く、苦しい……!」 助けを呼ぶ声を上げることも出来ず、ほどなくして気を失ってしまった。 「うふふふふふ……! まずは人質の確保、成功だぁ!」 長い舌を口に収めた男の顔は、緑一色の怪物のものに変化していた。 『魅惑の妖精』亭では、才人がカネゴンに金貨を渡していた。 「もうじきメーターがゼロになりそうだろ。これで閉店までは持つと思うぜ」 「おぉ、今のわたしのことを、こんなにも気遣ってくれるのか。坊ちゃん、本当にありがとう。感謝する……!」 金貨をもらったカネゴンは、突き出た目を潤ませて感激した。それに、反対に気が引ける才人。 「そこまで喜ぶことないのに。人間の時は、たくさんの人を従えてたじゃん」 「いいや。今、こんな身の上になって分かったが、これまでわたしの周りにいた人間は皆、 わたしの金目当てに機嫌を取る奴ばかりだった。かくいうわたしも、金こそが全てだと思っていた。 しかし、金で作った人の縁など、非常に儚いもので、肝心な時に役に立たないものだと身に染みたよ……」 これまでの自身の生き様を反省するカネゴン。金の切れ目が縁の切れ目と言うが、実際金で築いたものは、 金がなくなると呆気なく崩壊するもののようだ。 「しかし、ここにいる人たちは違う。文字通り金食い虫のわたしに親切にしてくれている。 これこそが、人間にとって本当に大切なものだったのだ。わたしは馬鹿だったよ。 徴税官チュレンヌに戻れたら、不正のない真っ当な役人としてやり直したい」 変な話だが、人間にあらざる存在になって、初めて人情が芽生えたようだ。才人はカネゴンの 心の入れ替えを、にっこりと微笑んで祝福した。 「俺、カネゴン――いや、チュレンヌさんのこと、精一杯応援するよ。どうにかして、絶対に、人間に戻ろうな」 二人がそんな話をしていたら、スカロンが時間を確かめ、焦った声を出した。 「もう開店間際なのに、ジェシカが相変わらず帰らないわ……。本当にあの子、どうしたのかしら。 こうなったら探しに、いえ、憲兵に連絡するのが先ね……」 本気でジェシカの心配をし始めたところで、羽扉の外から妖精亭の常連客が、手紙を片手に スカロンに呼びかけた。 「スカロンさん! 店の前に、こんな書き置きがあったよ!」 「あら、どうもありがとうございます。誰が置いてったのかしら……」 スカロンはすぐに内容を確かめ、一気にその顔が青ざめた。様子がおかしいことに気がついた 才人とカネゴンが、彼に近寄る。 「スカロンさん、どうしたんだ?」 「た、大変だわ! ジェシカが、誘拐されたみたい!」 「えぇッ!?」 誘拐という単語に、店の全員が驚愕した。ルイズがスカロンの元に駆け寄る。 「な、何て書いてあるの!? 見せてッ!」 スカロンから書き置きを預かったルイズは、その内容を才人に伝える。 「サイト、大変よ! 『この店の娘の一人を預かった。返してほしかったら、ヒラガサイトと ルイズというのの二人だけで、地図のバツ印まで来い。兵士に連絡したら、娘の命はない』って 書いてる! ジェシカのことだわ!」 「な、何だって!? すぐにジェシカに助けに行かなくっちゃ!」 そのまま店を飛び出しそうな勢いの才人を、スカロンが押し留める。 「待ってちょうだい! 父親のあたしじゃなくて、ルイズちゃんたちを指名したってことは、 犯人はあなたたちの身の上を知ってる奴に違いないわ。きっと、相応の用意をしてるはず。危険よ!」 自分の娘の危機にも関わらず、ルイズと才人を気遣う心優しいスカロン。ルイズたちはそれを ありがたく思うと同時に、彼のために尽力したくなる。 「平気よ。わたしたち、こう見えても結構場数踏んでるんだから。ねえサイト」 「ああ! 安心してくれスカロンさん。ジェシカは俺たちが必ず助け出すから!」 胸を張った才人がデルフリンガーを取ってくると、ルイズとともに犯人が指定した場所へ向かう。 「すぐ戻ってくるから! みんなはいつも通りに営業しててくれ!」 才人のひと言を最後に、二人は妖精亭を飛び出していった。ジェシカが人質にされているので、 それを見送ることしか出来ないスカロンたちだが、その中でカネゴンが言う。 「……わたしも行こう!」 「ええッ!? カネゴンちゃん、本気? 今のあなたじゃ、危険すぎるわよ!」 スカロンの問い返しに、カネゴンは答える。 「確かに魔法の力はなくなったが、この怪物の容姿がある。犯人も、わたしが顔を見せたら 一瞬でも驚くはずだ。何より、行き場を失ったわたしを助けてくれたここのみんなの力になりたいのだ! 店主、いやスカロンさん、止めてくれるな!」 「ああッ! カネゴンちゃん!」 カネゴンは制止を振り切って、ルイズたちの後を追いかけていってしまった。 「ルイズ、犯人が指定した場所は、どの辺りなんだ?」 「病院のすぐ横よ。どうしてそんなところを……」 ルイズと才人は、地図に印された場所に急行した。その場所、病院の真横の通りでは痩せぎすの男が、 気絶したままのジェシカを足元に寝かせ、その首筋に二又の刀を突きつけていた。 「うふふふ、来たなぁウルトラマンゼロ! 待ってたぞぉ」 「! お前は誰だ!」 男の姿を確かめた才人が問う。 「オイラは円盤生物ブニョ。お前を抹殺するために、ヤプールに雇われたのさ」 「円盤生物……姫さまが誘拐されかけた時の怪獣たちの生き残りね。わたしたちが狙いなら、 直接掛かってくればいいじゃない! ジェシカを巻き込むなんて卑怯よ!」 ルイズが非難すると、人間状態のブニョは嫌らしい笑みを顔に張りつけ、言い放った。 「ゼロは人類の守り神だそうだからなぁ。病人がいっぱいいる病院の真横じゃ戦えない。 変身もしない。な? そうだろ?」 「なッ……! そのために、ここを選んだのね……!」 激しい憤りに包まれるルイズ。どこの軍隊の末端の兵士も、質の悪い傭兵でも、最低限の 情けというものがある。怪我人や病人をわざわざ巻き込むような卑劣な真似はしない。だが、 ブニョは平然と盾に利用している。吐き気がするくらいの、許しがたい蛮行だ。 しかし、ブニョの手元にはジェシカの命がある。そのため、ルイズと才人は武器を手にすることも出来なかった。 「ジェシカを返せ! 病院の人たちも、巻き添えにするんじゃない!」 才人が怒鳴ると、ブニョは条件を突き出す。 「お前たちの身柄と交換だ。ゼロのお前と、強い力を持つその娘が大人しく捕まるのなら、 傷一つつけずに返してやる。嫌なら、今この場で……ウヒヒヒヒッ!」 刀でジェシカの喉笛を切り裂く真似をするブニョ。才人とルイズは仕方なく、その条件を呑む。 「分かった、言う通りにする……。その代わりに、先にジェシカを返してくれ!」 「よしよし、いいだろう。流石は人間の味方、ウルトラマンゼロだけのことはある。それ、受け取るがいい」 ブニョは無造作にジェシカを起こすと、才人に突き出す。才人は油断なくゆっくりと近づき、 ジェシカの身柄を預かった。 「今だッ!」 その瞬間を狙って、ブニョはどこからともなく出した赤いロープを才人の両手首に巻きつけた。 才人の腕は、ウルティメイトブレスレットの上から縛り上げられる。これでは、ウルトラゼロアイを 出すことが出来ない! 「サイト!」 「うッ……!」 両腕を使えなくなった才人に代わり、ルイズがジェシカを預かる。才人はロープをほどこうともがくが、 ブニョがそれを嘲笑した。 「無駄だ無駄だ! 宇宙鋼線で作ったロープだ。どんな力でも切れることはなぁい! お前がゼロに変身できなくなってる内に、五体をバラバラに切り落としてやるぅ!」 刀を振り上げ、才人ににじり寄ってくるブニョ。 「相棒危ねえ!」 「分かってるよ! でも、今逃げたらジェシカが……!」 デルフリンガーが叫ぶが、今の才人は彼を手に取ることも出来ない。更に失神している ジェシカを連れてブニョから逃げるのも無理だ。ルイズの魔法も間に合いそうにない。八方ふさがりである。 「ウルトラマンゼロもこれでおしまいだなぁ! なぁ!? ハルケギニアはとうとう、 ヤプール人のものだ! ウヒヒヒヒヒヒッ!」 才人たちが立ちすくむことしか出来ない間にも、ブニョの凶刃が刻一刻と迫る! その時になって、カネゴンがこの場に到着した。 「いかんいかん、迷ってしまった……。む、あれは!?」 カネゴンは状況を目にすると仰天。そしてすぐに自分のやるべきことを判断する。 「うおおおお―――――! 坊ちゃん、女官殿、危なーいッ!」 「チュレンヌさん!?」 「うぎゃあッ!? 何だぁ~!?」 カネゴンは全速力でブニョに飛び掛かり、ブニョともつれ合って倒れた。そのお陰で、 才人とルイズはジェシカを連れてブニョから距離を取ることに成功する。 「こ、この怪獣~! 後ちょっとというところで、よくも邪魔してくれたな~! お前から先に始末してやるぅ~!」 とどめまで後一歩の時に妨害されたブニョは怒り心頭。怪物の顔を晒して、カネゴンを斬殺しようとする。 「ひ、ヒィィィ―――――――! お助けぇ―――――――!」 「サイト! チュレンヌが危ないわ!」 「ああ! ルイズ、カプセル怪獣を取ってくれ!」 手が使えない才人の代わりに、ルイズがカプセルを取り出し、放り投げた。召喚されたのはウインダムだ。 「グワアアアアアアア!」 「ウインダム、ブニョを追っ払うんだ!」 ウインダムは即座に指示に従い、今にも押し倒したカネゴンの喉を切り裂こうとしていた ブニョを手で払いのける。 「うひゃあああ――――――!?」 「グワアアアアアアア!」 更に額からのレーザーで追撃。ブニョはほうほうの体で逃走していった。ひとまずは窮地を 脱することが出来た。 「チュレンヌさん、大丈夫か!?」 「よかった。どこもやられてないわね」 「あ、ありがとう……。結局、助けられてしまったな……」 「いや、こっちこそ本当に危ないところだった。助けてくれてありがとう」 ブニョがいなくなったので、ルイズたちはカネゴンに手を貸して助け起こした。しかし、 ブニョの脅威はまだ消えていなかったのだ。 「ブヨヨヨヨヨヨ!」 逃走したブニョは巨大化、緑一色の怪獣の姿を露わにして、夜のトリスタニアの真ん中に出現した。 街からは人々の悲鳴が湧き上がり出す。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは怪獣ブニョが出現すると、すぐにそちらへ突撃していく。距離を詰められた ブニョは激しく拳を振るい、ウインダムも負けじとパンチを繰り出して、両者殴り合いになった。 「グワアアアアアアア!」 「ブヨヨヨヨヨヨ!」 しかし、勝敗はすぐに決す。非力なブニョは呆気なく押し負け、両方の頬にワンツーパンチを もらってぶっ飛んだ。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは倒れたブニョに追撃のレーザーを撃ち込もうとする。が、即座に上半身を上げた ブニョが緑色のヌルヌルとしたオイルを吐き、ウインダムの足元にまき散らすと、ウインダムは 足を滑らせてバッターン! と大きく転倒してしまった。 その余波で、レンガ造りの商店がバラバラに崩れた。 「わあああぁぁぁぁぁぁ! わしの店ぇぇぇぇぇぇ!」 「グワアアアアアアア!?」 顔を上げたウインダムはガーン! とショックを受けたかのように開いた口を手の平で隠し、 商店を元に戻そうと、崩れたレンガを必死に積み上げる。 「ブヨヨヨヨヨヨ!」 しかしそこに、背後からブニョに蹴りを入れられ、その衝撃でレンガは余計に崩れてしまった。 ブニョは口から火花を放ち、倒れたままのウインダムを追い詰める。 「グワアアアアアアア!」 背面を焼かれるウインダムが悲鳴を上げて悶えた。 「怪獣が出てきたわ! ジェシカは無事なのかしら……?」 ブニョの出現により、トリスタニアの街は一気に騒然となり、あらゆる通りは逃げ惑う人々で ごった返した。スカロンたちも妖精亭から外に出て、ジェシカやルイズらの心配をした。 また別の場所では、チュレンヌの屋敷の衛兵たちが、状況を確認するために街へと出てきていた。 「こんな時に、チュレンヌさまはどこへ行ってしまったのだ……」 衛兵たちは、未だに自分たちの追い出したカネゴンがチュレンヌであることに気が付いていなかった。 と、その時に、彼らの近くで、財産を抱えて避難しているところの男性がスッ転んで金貨を辺りにぶちまけた。 「あッ」 衛兵たちは全員、思わず足元に転がってきた金貨を見下ろした。 ウインダムが苦しめられている中で、才人はカネゴンにまだ失神中のジェシカを託した。 「チュレンヌさん、ジェシカを妖精亭まで運んであげて下さい! 俺たちは、このロープを どうにかしてから追いかけます!」 「う、うむ! 君たちもすぐに来てくれよ!」 言われた通りに、ジェシカを抱え上げて瞬く間に走り去っていくカネゴン。残る問題は、 どうやって宇宙鋼線製のロープを解いて、ゼロに変身するかだ。 「うッ、くッ……か、固い……!」 「全然ほどける気配がないわ……!」 二人掛かりで解こうとするも、ロープは才人の手首をガッチリ締めつけていて、全く効果がない。 如何なる力でも切れないというのは伊達ではないようだ。 「こんなんじゃ駄目だ。何かいい手は……」 考えた才人は、天啓を得たかのように案を思いつく。 「そうだ! ルイズ、俺に『爆発』を浴びせろ!」 「えッ!? いきなり何言い出すの!?」 「お前の『爆発』の衝撃は相当なもんだ! それなら、このロープも緩むかも!」 いつもは癇癪任せに才人を爆発させているルイズだが、こんな時に限って戸惑う。しかし考えている 時間はないのだ。駄目元でやってみる。 「後で文句言わないでよね! 『爆発』!」 最も短い形で呪文を詠唱すると、たちまち才人を爆発が包んだ。 「うげッ! げほッ! 相変わらず強烈だな……」 激しく咳き込む才人だが、もう爆発にも慣れた。割と平然としている。 それとは反対に、ロープは思惑通りに緩んでくれた。成功だ。 「よっしゃあッ! これで、とうとう変身できるぜ!」 すかさずロープから手首を抜くと、念願のウルトラゼロアイを出し、すぐに顔に装着した。 「デュワッ!」 一瞬で才人はゼロに変身、巨大化を果たした。街からは、待ち望んでいたヒーローの登場に 歓喜の声が沸き起こった。 『散々好き勝手してくれやがったな! だが、そろそろ年貢の徴税の時間だぜ!』 「ブヨヨヨヨヨヨ!?」 ブニョはゼロが目の前に現れたことに激しく動揺した。その隙に、ゼロはウインダムをカプセルに戻した。 『よぉし! 行くぜぇッ!』 ブニョへとまっすぐ駆けていくゼロ。彼の腕前ならば、一撃でブニョを破裂できることだろう。 「ブヨヨヨヨヨヨ!」 だがブニョも黙ってやられる真似はしない。再びオイルを吐き、ゼロの足元にまいた。 『うおぉッ!?』 ゼロも足を滑らせ、転倒してしまった。どんな力のある者も、オイルをまかれて踏ん張るのは無理なことだ。 「ブヨヨヨヨヨヨ!」 そしてブニョは舌を伸ばし、ゼロの首に巻きつけると、そのまま引っ張って市中引き回しにする。 大変非力なブニョだが、舌の筋力だけは自信があるのだ。 『うおおおおッ! くそッ、つまらねぇ真似すんじゃねぇぜ!』 しかしゼロほどの男が、されるままになる訳がない。顔を上げてエメリウムスラッシュを放ち、 舌を焼き切ったのだ。 「ブヨヨヨヨヨヨ!!」 『はぁッ!』 ブニョが舌を切断されて狼狽している間に、ゼロは高く跳躍した。降り立った場所は、ブニョの真後ろ。 『テメェのような奴には、一片の情けもねぇぜ! こいつでフィニッシュだぁぁぁぁ―――――――――――――!!』 ゼロは好機を逃さず、ブニョを背後から捕らえると、きりもみ回転をつけて真上に投げ飛ばした。 それからゼロも跳び、無防備なブニョの逆さまな身体を押さえて、真下の地面に激しく叩きつけた! グレンファイヤーから技を盗んで編み出した強力な一撃、ゼロドライバーだ! その一撃によりブニョは絶命したのだが、ゼロドライバーが決まった瞬間、戦いをながめていた ルイズが思わず叫んだ。 「あッ! 緑のぶよぶよが逆立ちした!」 直後にブニョは全身が破裂し、緑の粘液が弾けた。 それに合わせるかのように、スカロンたちの元にジェシカを届けたカネゴンが、突然下部から ロケット噴射を出して大空へ飛び上がった! 「ええええええええええ――――――――――――――――――――!!?」 ルイズやスカロンたちは、予想外すぎる展開に絶叫を上げてあんぐり口を開いた。 ぐんぐん高度を上げていくカネゴンだが、その途中で、パラシュートが切り離された。 「何か落ちてくる!」 「行ってみましょうよ!」 パラシュートを追って走っていくルイズやスカロンたち。そうして街中に着地したパラシュートを 発見する。その傘の下から、何かが這い出てきた。 「あぁぁぁぁッ!! チュレンヌさん、元の姿に戻ってる!」 出てきたのはチュレンヌ。もうカネゴンの姿ではなくなっていた。それを、自身の身体に 触れて確かめたチュレンヌは、即座に大歓喜した。 「も、元に戻ってる! やったやったぁ~! やったぞぉ~!」 貴族らしい振る舞いも忘れ、子供のようにはしゃぐチュレンヌに、変身を解いた才人とルイズが近寄っていく。 「よかったですね、チュレンヌさん。これでもうひと安心ですよ」 「でも、もうお金にがめつくなったら駄目よ。またカネゴンになられたらたまらないもの」 「ああ、ああ、分かっておりますとも! もう金儲けはコリゴリだ。これからは慎ましやかに 生きていくことを誓いますぞ!」 チュレンヌはカネゴンへの変身を通して、すっかり心を入れ替えたようだ。それを見て取って、 ルイズたちは満足そうに笑い返した。 「スカロンさん、世話になった! あんたたちは、我が人生の恩人だ! 本当に感謝する!」 「こちらこそ、短い間でしたけど、賑やかで楽しかったですよ。チュレンヌさま、どうぞお達者で~!」 スカロンやルイズらに見送られて、チュレンヌはスキップのように跳びはねながら、 自分の屋敷に帰っていった。 「うっほほい! うっほほい! 人間に戻れたぞ~!」 チュレンヌは道中ずっとはしゃぎながら、自身の屋敷の前まで到着した。すぐに正門を開き、帰宅を果たす。 「皆の者、チュレンヌが帰ったぞ! ――ぬええぇぇッ!?」 中に入ると同時に呼びかけたのだが、目に入った光景によって、その声は裏返った。 「あッ、チュレンヌさま~。お帰りなさいませ~」 何と屋敷の吹き抜けの玄関で、槍を持ったカネゴンたちが縦列を作っていたのだ。チュレンヌはすぐに それらが、城の衛兵たちだと理解した。 「お、お前たち……」 ぼんやりと突っ立っているカネゴンたちの光景に衝撃を受けたチュレンヌは、同時に才人の 言っていたことを思い出す。 「……道に落ちてる金を、ネコババしたのだな……」 自分が戻った矢先にコレ。チュレンヌは目の前が真っ暗になって、頭を抱えて天を仰いだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1275.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 『桟橋』への路を急ぐ途中、 突如ワルドがうめき声を上げる。 「何……!?」 「ワルド、どうかしたの?」 ワルドは非常に驚いていた。 汗をかいてもいる。 「い、いや……何でもないんだ」 「なら良いけど……」 「それより、急ごう」 枯れた巨大な樹を利用して作られた船着き場、 『桟橋』にたどり着くと、ワルドは案内プレートを見て、 アルビオン行きの船が先にあるであろう階段を駆け上る。 ルイズ達もそれに続いた。 踏み込む度に階段が少しきしむ。 目的の枝へとたどり着き、その先にある船へと走る。 甲板へとたどり着くと、その船の船員が驚いた声で出迎えた。 「な、なんだあんた達は」 「船長はいるか!?」 船員は呆れた風に返す。 「今は寝てるよ。用があるなら明日の」 「良いから今すぐ出せ!」 ワルドが叫びながら杖を突きつけると、船員は飛び上がって走っていく。 直に、船長らしき人物が現れた。 「こんな夜遅くに、何のご用ですかな?」 「魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。今すぐアルビオンへ船を出して貰う」 「ははは、無茶を言わんでくださ――」 「いいから出せ!」 船長が怒鳴られて、震え上がり、おどおどした口調で返した。 「し、しかしですな、『風石』が足りませんで、今出してもアルビオンへは」 「僕は『風』のメイジだ。足りない分は補う」 「へ、へぇ。しかし、代金は――」 「金なら後で幾らでも出してやる!良いからさっさと船を出せ!」 その言葉を聞くと、船長は叫ぶ。 「出港だ!もやいをはなて!帆を打て!」 ルイズはワルドの焦りようを少し疑問には思ったが、今は非常時だし、 彼女自身も非常事態にあるが故、別におかしくないこと、で決着を付けてしまった。 ルイズは甲板の手すりに寄りかかっていた。 船員に危ないと言われたが、それでもそうしていた。 「大丈夫かしら……二人とも」 タバサが使い魔を行かせてくれたが、見つけられなかったらどうするのだろうか? そもそも――いや、あの二人は無事である。そうであるはずだ。 だから、そんなことを考える必要はない――そう思い、思考を切り替えようとした時である。 「アルビオンが見えたぞー!」 その言葉に、ルイズは前を向く。 その先には、雲の上に置かれたかのように浮かぶ、大陸があった。 彼女は以前にも見たことはあるが、雄大なものは雄大である。 ルイズはそれを見つめている間、何も考えては居なかった。 が、再び船員の声が聞こえてくる。 「2時の方向、仰角40!船が一隻近づいてきます!」 「何だと!?旗は何だ!」 「旗はありません!空賊です」 「く……取り舵いっぱい!」 だがそれは、空賊船が放った大砲の音で、 諦めざるを得なくなる。 「船長、停戦命令です……」 船長はこの中で一番頼りになりそうな、 ワルドに目を向けた。 「残念だが、魔法はもう使えない。この船を浮かべるので精一杯だ」 「……船を止めろ……」 「空賊だ!抵抗するんじゃねえぞ!」 「何ですって!?」 ルイズは取り敢えず近くにいたギーシュの方を向く。 慌てていて、到底話し相手には向きそうもない。 ワルドの方を向く。だが、さっき聞いたとおり、魔法は船を浮かべるのに使っている。 相手の船が近づいてきて、此方の舷縁に鈎縄を引っかける。 それを伝って何人かの空賊が此方に移動してくる。 そういえば、ワルドの使い魔のグリフォンが居た、と思いだし其方の方を見てみると、 既に魔法か何かで眠らせられたようだった。 「……そんな、姫様からの任務が果たせないわ……」 「船長は何処でぇ?」 声のした方を見やると、汚れたシャツに日焼けした逞しい腕、 手入れもされて無さそうな黒い髪、左目にされた眼帯…… いかにも空賊です、と言わんばかりの男が居た。 船長が進み出る。 「私だ……」 「船の名前と、積み荷を教えちゃあくれねぇか?」 頼むような口ぶりだったが、 後ろで銃や剣を構えた者達が居ては、脅しにしか見えない。 「……トリステインの『マリー・ガラント号』。積み荷は硫黄だ」 「なるほど、じゃあ買わせて貰う」 「金を払うわけでもあるまい……」 「なら空賊らしく頂いていく、とでも言やぁ良いのか?」 男が笑う。 手下たちもそれに合わせて笑う。 そして今初めて気付いたのか、ルイズの方を見やる。 「へぇ、この船は貴族まで乗せてるのか」 歩み寄ると、ルイズの頭を掴み、自分の方へと力づくで向けさせた。 「こいつぁ、べっぴんさんだな!俺の船で皿洗いをやらねえか?」 「お断りよ!」 頭を掴んでいた手を振り払う。 頭と思われる人物は嫌な笑みを浮かべ、両手をわざとらしく挙げる。 振り返ってから、手下達に向かって叫ぶ。 「こいつらを運びな。身代金がたんまりと貰えるだろうよ!」 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 どうしてこうなったんだろう。ギーシュはそんなことを考えていた。 彼らの内の一人が貴族派か王党派か聞いてきて、 その場を凌ぐために貴族派と言おうとしたときに…… ルイズが何をとち狂ったのか、任務を帯びてアルビオンまで行くことを明かし、 その後呆れた様子の船員にこのやけに豪華な船長室に連れてこられて…… 貴族派に付けば取り敢えずは見のがして貰えそうだったが、 そこでもルイズが憮然としていた。 まぁ、その態度自体はギーシュにも共感できるものではあったのだが。 で、そこから何が間違ったのか、 頭と思われる男が変装をとくと、なにやらりりしい青年が現れたと思えば、 先の名乗りである。 つまり、ルイズ達は目的の人物への接触を果たしたのである。 ルイズは慌てながら、ワルドは意外と冷静に、名乗りに返す。 「姫様より、大使の任を仰せつかまつった、ルイズ・ラ・ヴァリエールです」 「トリステイン王国魔法衛士隊隊長、ワルド子爵です」 呆然としてたギーシュは、それを見て、周りを見回して、 少し考え込んでから、ようやく気付いて慌てて名乗る。 「ギ、ギーシュ・ド・グラモンです!」 「先ほどは失礼をした。我々としても、今だ味方の貴族が居るとは思わなかったのだ。 試すような真似をして済まない」 慌てているルイズと、未だに困惑しているギーシュではなく、 ワルドが頭を下げて言う。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を預かって参りました」 「そうか。して、その密書とやらは?」 「こ、こちらに」 ルイズがポケットから手紙を取り出し、ウェールズに渡す……直前で止まり、 少々遠慮しながら口を開く。 「あの、失礼ですが……本当にウェールズ様ですか?」 「……まぁ、さっきまでのを見て信じろと言うのもそうだな。 証拠を見せよう」 そう言うと、ルイズの手を取り、自身の反対側の手にはまっている指輪を近づける。 すると、互いの指輪の間に、虹色の光が輝く。 「これって……」 「この指輪はアルビオン王家に伝わる『風のルビー』。 君のそれは『水のルビー』だろう?水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹だ」 「大変、失礼をば致しました……」 ルイズは頭を下げて、手紙をウェールズに手渡す。 ウェールズは受け取ると、それを大事そうに持ち直し、 花押に口づけをすると、丁寧に封を開ける。 暫く真剣な顔で読んでいたが、ふと顔を上げると、呟く。 「彼女……姫は……アンリエッタは結婚するのか?私の愛すべき……従妹は」 ワルドが無言で頷く。 ルイズは、ウェールズが少し落ち込んだように見えた。 だが、ウェールズは真剣な顔を見せる。 「事情はわかった。姫から貰ったあの手紙は大切なものだが、 その姫が返してくれと言うのだ。断れる理由はない」 ルイズが顔をほころばせる。 ギーシュはようやく状況を理解したのか、真剣な顔をする。 「しかし、今手元にはない。まさか、空賊船に持ってくるわけにも行かぬのでね」 そういい、ウェールズは笑顔になる。 「ニューカッスルまでご足労願いたい。そこで手紙を返そう」 ワルドも、笑っていた。 『桟橋』の位置を知らないブルー達は、その後暫くしてようやく『桟橋』に着いた。 もう空が明るみを持ち始めている。普通に人に聞いてきたのである。 見上げて、話し出す。 「ここが『桟橋』か?」 「そうみたいね」 「ここで船に乗ればいいのか?」 「多分、そうだと思うわ……」 『桟橋』の中へはいる。 案内のプレートを見たが、よくわからない。 「キュルケ、何処に行けば良いんだ?」 「解らないわね」 「……どうする」 「大丈夫じゃないの?あっちは4人もいるんだし……って、あれは」 キュルケの目線の先を追うと、そこにはタバサと使い魔の雷竜が居た。 「タバサ?みんなは?」 「先に行った」 「乗ってけって事?」 タバサは無言で頷く。 雷竜が何かげんなりした様子になった。 「……何か嫌がってるが」 「まぁ、タバサが良いって言うんだから良いんじゃない?」 そう言って、二人は雷竜の背に乗った。 雷竜は、嫌がっては居たものの、荷物など無いかのように力強く羽ばたいた。 ラ・ロシェールがだんだんと離れていき、そのうち豆のようになってしまう。 キュルケが広大な空を見回して言う。 「空って本当に目印になるようなもの無いわねー」 「「………」」 「アルビオンはどのくらいかかるのかしら?」 「「………」」 「けど、大体の方角は合ってるはずだから、そのうち着くわよねー」 「「………」」 「……何か返事して頂戴」 「……そうだな……そういえばアルビオンは……空にあるのか?」 「そうよ、浮遊大陸アルビオン……と言っても、あたしはよく知らないけど」 そこで会話がとぎれる。 また気まずくなってきたので、キュルケが言う。 「確か……スカロボーとか言うところだったかしら?」 タバサが無言で頷く。 「場所は?」 「取り敢えず近い街に降りる」 「ま、そういってもまだまだ遠いけどね……」 目に映るのは雲の海と下の景色だけだった。 それを眺めていたブルーの視界が、突如ぼやける。 「ん……?」 「どうしたのダーリン?」 「いや、ちょっと目が霞んだだけだ」 目を閉じて、再び開く。景色は変化していたが、歪んでも霞んでも居なかった。 秘密の入り口から、ゆるゆると船が上昇していく。 次第に上に明かりが見えてくる。 上がりきると、巨大な鍾乳洞に大勢の人がいた。 先ほど見えた明かりは、そこらに生えているこけから発せられているようだった。 船から降りると、ルイズ達は先ほど見えた大勢の人に出迎えられる。 彼らのうち一人の老いたメイジが進み出てくる。 「殿下、これは大した戦果ですな!」 「喜べ、パリー!硫黄だ、硫黄!」 その声に、集まっていた人々が歓声を上げる。 「おお、硫黄ですと!……これで我々の名誉も守られるというものですな! 先の陛下よりお仕えして60年、こんなにも嬉しいことはありませんぞ!」 「そうだ、これさえあれば、叛徒共に王家の名誉と誇りを示して敗北することが出来る」 「素晴らしい事です!栄光ある敗北となるでしょう! して、叛徒共は明日の正午に攻撃する旨を伝えて参りました。 殿下が間に合いまして、良かったですわい!」 「それは良かった!戦に遅れるとならば、とても死にきれぬからな!」 ルイズはその会話に、顔を青ざめさせる。 死にに行くつもりだというのに、何故彼らは笑っていられるのだろう? そう思ったのだ。 「して、その方達は?」 と、パリーと呼ばれた老メイジが、此方を見て言ってくる。 「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で参られたのだ」 そういわれると、パリーはルイズ達に歩み寄ってくる。 「これは大使殿!私は殿下の侍従を仰せつかっております、パリーと申すものです。 遠くからはるばるこのアルビオン王国にいらっしゃいました。 大したもてなしは出来ませぬが、今夜はささやかな祝宴が開かれますので、 どうぞ、参加していってくださいませ」 ルイズ達はその後、ウェールズに連れられて、彼の部屋に居た。 彼は質素なその部屋にある机の引き出しを空けると、 そこから宝石で飾られた箱を取り出し、鍵を開けた。 ルイズがのぞき込んでみると、ふたの内側にアンリエッタの肖像画が描かれていた。 ウェールズはその視線に気づき、恥ずかしそうに言う。 「宝箱でね」 中から一通の手紙を取り出し。それを読み始める。 今ウェールズがそうしてるように、幾度も読まれたらしいその手紙はボロボロだった。 読み終えたのか、その手紙を封筒に入れると、ルイズに差し出す。 「これが姫の手紙だ。この通り、確かにお返しした」 「ありがとうございます」 ルイズは深く礼をして、その手紙を受け取る。 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号がここをたつ。 それに乗ってトリステインに帰ると良い」 ルイズは俯いて手紙を見つめていたが、顔を上げて、 ウェールズの顔をしっかりと見据えて言う。 「殿下、栄光ある敗北とおっしゃられていましたが…… 王軍に勝ち目は無いのですか?」 「無い。彼我戦力の差は圧倒的だ。出来ることは、せめて勇敢に戦い、散ることだ」 「……その中には、殿下もですか?」 「当然だ。自分だけ生き残るような恥をさらすつもりはない」 「……もう一つだけお聞きしてよろしいでしょうか」 「構わないよ」 ルイズはそういわれたものの、言葉に出す事を悩み、俯いた。 だが、言う。 「殿下。もしや……殿下と姫様は……恋人同士……だったのでは?」 「そうだ」 ルイズの時間をかけた言葉に対して、ウェールズの返答はあっさりしていた。 「ああ、そうだ。アンリエッタと私は恋人同士だ…った。 その手紙がレコン・キスタの手に渡ると危険なのは、そういうことだ。 なにせ、その手紙において彼女は始祖ブリミルの名において、 私に永久の愛を誓っているのだからね」 その言葉を聞いて、ルイズは大声で、半ば叫ぶような形で言う。 「……殿下、亡命してください!トリステインに、亡命を!」 「それはできんよ」 「姫様の手紙にも、そう書いてあったはずです! ……私は姫様をよく存じております、一度愛を誓った人物を、見捨てるような方ではないと!」 「そんなことは、書かれていない」 「そんなはずは―」 「誓って言おう。そのようなことは書かれていない」 そうは言っていたものの、彼の表情には苦い物があった。 「彼女は王女だ、自分の立場を解っているはずだ」 「……解りました」 「……君は素直な子だな。大使には向かないと思える」 ウェールズは今までの表情を一転させ、笑顔を見せる。 「さて、もうそろそろパーティの時間だ。 君たちは我々が迎える最後の客になるだろう。是非、出席していってくれ」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9175.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十八話「軍港SOS」 幻覚宇宙人メトロン星人 登場 ガリアの軍港サン・マロン。海沿いに造られた巨大な軍港で、ガリア空海軍の一大根拠地である。 ハルケギニア最強と称されるガリア自慢の大艦隊は、普段はここにズラリと帆を並べている。 その軍港に今、タバサが指令を受けて来ていた。 「爆発未遂は今月に入ってすでに二件目です」 タバサと人間に化けたシルフィードに若い士官が、現在軍港で発生している事件の詳細を 説明していた。甲板士官のヴィレール少尉という名だ。タバサの案内役を任されている。 「幸い全ての件で、近くにいた水平たちが犯人を寸前で取り押さえることに成功していますが、 そんな幸運が長く続くとは言い切れません。艦隊首脳部も、この連続事件には頭を悩めています。 トリステイン・ゲルマニア連合軍がアルビオン大陸の上陸作戦がもう間もなくになるだろうと 予測される中で、軍内に火種を抱えていては、陛下からの勅令が発せられた際に安心して出港できませんので」 トリステイン・ゲルマニア連合軍とアルビオン新政府の間に本格的な戦争が勃発するまで 日がないのは、誰の目から見ても明らか。けれども、両陣営から毎日のように参戦を促す特使が やってきても、ジョゼフ王は未だにどちらに付くのか、黙して語らなかった。 それでも艦隊を預かるクラヴィル卿は、来たるべき参戦に備え、休みなく艦隊の整備を行っている。 その最中での、この騒ぎ。クラヴィル卿は全く気が気でないだろう。 「……爆破未遂の犯人の調査は?」 タバサがひと言尋ねると、ヴィレールは残念そうに首を振った。 「もちろん行われましたが、全員に一貫した共通点がなく、何度洗おうと何のつながりも 発見されませんでした。共通している点を強いて挙げるとするならば、全員が自分のやったことを 覚えていないと証言することのみ。どうせ言い逃れでしょうが……」 「他の水兵の中で、犯行に走りそうな者のめぼしは?」 「全員を洗うのは無理です。何せ艦隊増強の結果、水兵の数は以前の倍に膨れ上がりました。 中には元から出自の怪しいものも多数います。それもこれも、生まれを問わずに雇い入れる 陛下の政策のせい……あッ、いえ、今のは聞かなかったことにして下さい」 愚痴を唱えたヴィレールは、慌てて口をつぐんだ。 そのとき……、軍港の一角、一隻の戦艦の方で大きな怒号と騒ぎが沸き上がった。 「『グロワール』号の方からです!」 「案内して」 タバサはすぐに断じた。 『グロワール』号というフネが係留されている桟橋では、二十歳を出たばかりくらいの若い男が、 幾人もの屈強な水兵たちに腕ずくで拘束されて『グロワール』号から引きずりおろされるところだった。 ヴィレールが水兵たちに尋ねる。 「何事だ?」 水兵の一人が答えた。 「今さっきこいつが、火薬庫に火を点けようとしてたんです。危ないところで、俺たち纏めて 木端微塵にされるとこでしたよ」 「この『グロワール』号の、今日の当直歩哨だった奴です」 「また爆破未遂事件か……。おい、貴様、何の目的でこんな真似をしたんだ。火を点けてたら、 貴様もあの世行きのところだったんだぞ」 ヴィレールが尋問しようとしたが……顔を上げた男は、歯を剥き出しにして獣のようにうなるばかりだった。 「うぅぅぅ……うがぁぁぁッ!」 「駄目です。こいつは正気じゃありません。話は通じませんよ」 「仕方ない……。営倉へ連れていけ!」 ヴィレールが命ずる。それに従って男を連行しようとする水兵たちに、シルフィードが一つ質問した。 「それにしても、よく何度も危ないとこを防げるものね。見回りしてたの?」 それに水兵たちは、一様にニカッと笑って答えた。 「それくらい、当然のことです。自分たちの身を守るためなんだから、命令がなくても自主的に フネを守ってますよ」 「自分だけのためじゃない。フネの乗組員は全員、家族みたいなものです。家族のために 一致団結するのは当たり前でしょう」 「そ、そう……」 水兵たちのあまりにはきはきとした回答に、シルフィードは思わず引いてしまった。 去っていく水兵たちの後ろ姿を見つめたタバサが、ヴィレールに問いかける。 「……随分、仲がいい」 爆破未遂犯の男を連行した水平たちは、見たところ出身も貧富もバラバラなようだった。 それなのに、何と息の合っていることか。 ヴィレールは首肯する。 「ええ。さっきは批判的なこと言いましたけど、実際はこの軍港のほとんどの水兵同士の仲は かなり良好ですよ。その数も、日増しに増えていってるようです」 そこまで語ると、声を潜めた。 「ただ……あまりに行き過ぎてるので、私はいささか不気味に感じてますけどね。生まれの違いが ある者同士だったら、いがみ合うのが普通でしょう。それなのに、そういうのがないんですから。 もちろんいいことなんでしょうけど、何がきっかけであそこまで友好関係を築けるのか……。 裏で新教が流行してるんじゃないか、なんて洒落にならない噂も流れてます」 タバサは、周りに集まった野次馬の群集を見渡す。と、水兵たちの中に混じって、聖衣姿の 女性を発見した。屈強な男たちの間にいるのが似つかわしくないほど、清楚で柔らかな雰囲気の女性だ。 「彼女は?」 「シスター・リュシー。『ヴィラ』号の艦付き神官です」 戦列艦以上のフネには、神官が乗り込むのが通例。戦死者が出れば彼らの死に水も取る、 なくてはならない存在だ。しかし、 「どうして他のフネの神官が、ここに?」 タバサの疑問に、ヴィレールはこう答える。 「彼女は未遂事件が起こる度に、姿を見せますよ。ただ、野次馬って訳じゃなく、祈りを捧げるためです。 フネの爆破による大量死が阻止されたことを、始祖ブリミルに感謝してるんでしょう」 ヴィレールの言う通り、リュシーは聖具を握り締めて熱心に祈っていた。そこに下世話な 感情がないことは、遠目からでもタバサは見て取った。 「実は、事件が起こり始めた頃は、シスターが首謀者ではないかとの疑いも掛かりました」 ヴィレールが語る。 「彼女の父はオルレアン公派で、宮廷の一斉粛清で命を落としましたからね。犯行の動機としては まっとうですよ。しかしどれだけ調べても何も出てこなかったので、白と断定されました。まぁ、 私は彼女が首謀者なんてこと、端から信じてませんでしたが。他の威張り散らした神官と違って、 シスターは誰にでも分け隔てなく優しいですので。水兵たちに何度も差し入れをするくらいですよ。 食べ物だったり、ワインだったり、タバコなんて高価なものまで。清貧というのは、シスターのために あるような言葉ですね」 タバコは、ハルケギニアの文明ではまだ高級品だ。それも気前良く差し入れにするとは、 なかなか出来ることではない。 それはともかく、タバサはこの後、例の男が爆破未遂を起こした現場の検証を行った。 しかし、手掛かりとなりそうなものは何一つ発見できなかった。 手掛かりは、犯人から聞き出さなくてはいけないみたいだ。 二時間後、犯人のヨハンという男は目を覚ました。 「本当ですよ! フネを爆破しようとしたなんて、そんな恐ろしい……」 しかし、ヨハンもまたこれまでの犯人と同じく、自分のやったことを覚えていないとの証言を 繰り返していた。 「黙れッ! 貴様は現行犯だ。貴様が火薬庫に火を点けようとしていたところを、何人もが 目撃してるんだぞ!」 尋問の担当官がきつく当たっても、ヨハンは戸惑うばかり。その様子を、タバサとシルフィードが 壁際で静観している。 「知りません……本当に知らないんです……」 「……じゃあ、反対に、今日のことで覚えていることを全て話せ」 「今日はいつも通りに、水兵の仕事と当直任務を……。食べたものは朝飯のパン二つとミルク、 他には休憩の時にタバコくらい。他には、友人と他愛ない話をしたくらいで、特別なことは何も……」 尋問は続くが、タバサはこれ以上有益な情報は出てこないと判断して、シルフィードを連れて 早々に尋問室から出た。 営倉には、ヨハンの友人と思しき水兵が押しかけて、士官に抑えられていた。 「大尉! ヨハンはフネの爆破を目論むような奴じゃありません! あいつは本当に真面目な奴で、 金を貯めて田舎の家族のために土地を買うんだって張り切ってました! 何かの間違いですよ!」 「そんなことは知ったことじゃない。奴が点火を図ろうとしたことは、間違いのない事実なんだ」 友人の訴えは、まるで取り合ってもらえなかった。決定的な証拠があるためでもあるが。 タバサは待っていたヴィレールに尋ねかける。 「……ヨハンという士官が、心を操る術を掛けられていたということは?」 水系統の魔法には、人の精神を操作するものもある。特に強力かつ厄介なのは、禁呪の “制約(ギアス)”だろうか。発動に時間や場所の指定が出来、それまでは見破ることが出来ない代物だ。 しかし、ヴィレールはその可能性を否定する。 「『ディティクト・マジック』で調べられましたが、誰かに魔法を使われた形跡はなかったとのことです。 この点は、これまでの犯人も同じです」 「そう……」 犯人からも、手掛かりを得ることは出来なかったように見える。しかしタバサは一つの可能性に 思考が至り、一旦ヴィレールから離れて別の場所へと移動していく。 「おねえさま、これからどこ行くつもりなの? シルフィ、もう訳が分からないのね。 何が真実なのかしら。きゅい」 移動の途中、シルフィードが質問した。タバサは次のように答える。 「水平の宿舎。ヨハンの持ち物を調べる」 「持ち物って、そんなのは軍人さんたちがとっくに調べてるはずなのね」 「彼らが調べていないものを、確かめる」 「そんなことして、何になるのね……?」 シルフィードには皆目見当がつかなかったが、それでもタバサについていく。 と、人気のない場所を通過していたその時……タバサは近くに、怪しい気配を感じ取って足を止めた。 どうやら、こちらを注意深く観察しているようだ。 「おねえさま?」 油断なく辺りに目をやり……そして、背後にいつの間にか、謎の男が立っているのを発見した。 黒い服に黒い帽子、黒眼鏡と、全身黒づくしの明らかな不審者だ。 「だ、誰なのね!?」 タバサとシルフィードはすぐさま警戒態勢を取る。一方で男は、淡々とタバサに告げた。 「タバサ……いや、シャルロット姫。我々の邪魔をするな。今すぐに手を引け」 「!?」 仰天する二人。タバサの本当の名前は、極々一部の者しか知らないことだ。それを言い当てた あの男は、一体!? 「我々にとって君を倒すことは問題ではない。だが、君と争うことなどは愚かなことだ。 もう一度忠告しておく。すぐにこの軍港から立ち去るのだ、シャルロット姫!」 男は一方的に告げ、倉庫の陰へと飛び込んだ。 「ま、待つのね!」 すぐに追いかけるタバサとシルフィードだが……角を曲がった時には、男は初めから いなかったかのように消え失せていた。 怪しい男がいた痕跡は、どこにもない。そこから真実をたどることは出来ないと判断したタバサは、 男の警告も構わず、予定通りの捜査を進めた。 ヨハンは連れていかれた時、明らかに普通の状態ではなかった。しかし尋問の際には完璧に正気だった。 裏の世界で事件をいくつも解決したタバサは、彼の証言の中に一切の嘘がなく、また両方の時でも 彼が演技をしていなかったことを確信していた。 となると、ヨハンの異常は外的要因によるものとしか思えない。しかし、他者から魔法は 使われていないという。ならば、彼の持ち物や口に入れた物の中に真実へ至る手掛かりが あるのではないか。もしこれでも何も出なかったら、完全に手詰まりだ。 そのため、タバサは一切の見落としがないように徹底的に調べた。食堂で彼が食べたパンやミルクの 成分を確かめたり、どんなにつまらないもののように思える持ち物も分解したり……。 その末に、ヨハンの吸い残しと思われるタバコの中から、小さな赤い結晶がいくつもこぼれ出てきた。 知識の広いタバサは、普通のタバコにこんなものは含まれていないことがすぐに分かった……。 捜査に時間がかかり、もう日は傾きかけていた。空は朱色に染まっている。 その空の下で、タバサとシルフィードは軍港付きの寺院を目指していた。 「おねえさま、一体どんなものを見つけたの?」 シルフィードが尋ねると、タバサは先ほどの赤い結晶の粒をつまみ上げて見せた。 「タバコから出てきた。捕まえてかごに入れたネズミの一匹に、これを飲ませて実験したら……」 「実験したら?」 「たちまち獰猛になって、他のネズミを食い殺した」 ぎょっと、シルフィードが目を見開いた。 「これには理性を失わせて、周りを全て敵に見せ、攻撃性を高める効力があるみたい。これを含んだ タバコを吸った者は、周りの人間を一気に消し飛ばそうとして……」 タバコから赤い結晶を発見したことで、もう一つの犯人の共通点をタバサは発見した。 犯人たちは、全員事件を起こす寸前にタバコを吸っていたのだ。 そしてそのタバコは、シスター・リュシーの差し入れしたものだったのだ……。 「まさか! あのシスターさんが、事件の首謀者?」 そこまで説明されても、シルフィードはにわかには信じられなかった。 「とてもそんな恐ろしいことするような人には見えなかったのね。何かの間違いなのよ。 ……そうだ! さっきのあの黒い男が真犯人なのね! そうなのね! きゅい!」 タバサも、先ほどの黒ずくめの男が何者なのか、その謎はまだ解いていなかった。 しかし、それもすぐに明かされそうだ。教会の前までたどり着いたところで、教会に入ろうと している黒い男の後ろ姿を発見したからだ。 「あッ! あの男なのね! シルフィの言った通りなのね!」 「追いかけよう」 すぐさま後を追いかけ、扉をくぐる二人。男は聖堂を突っ切り、神官の居住域へと身体を 滑り込ませていった。 「あそこなのね!」 ここから先、教会の奥は、もう逃げ場などない。タバサとシルフィードはすぐに踏み込み、 一つの部屋の扉の前に立った。 「おねえさま……」 小さく呼びかけるシルフィードにおもむろにうなずき返し、タバサが一気に扉を開け放つ! そこで二人を待ち構えていたのは! 「ようこそ、シャルロット姫! 私は君の来るのを待っていたのだ。……なーんちゃってねぇ!」 サイケデリックな色彩の体表をした、何かの種子に手足が生えたかのような奇抜な外見をした怪生物だった! 「か、怪人!? し、し、侵略者なのね!!」 予想外の出来事に、シルフィードは思わず叫んだ。タバサも声もなく驚いているが、目の前の怪人が、 黒い男の正体なのだと直感で理解した。 「おっと、自己紹介しておかなくっちゃね。こっちばかりが、そっちのことを知ってるなんてのは不公平だ。 私はメトロン星人というものだよ。お二人とも、歓迎しよう。まぁ立ち話も何だし、こっちに来て座りなさいな」 メトロン星人と名乗る怪人は、異形の見た目に似つかわしくないほどのフレンドリーな口調で タバサたちを部屋の奥へ誘い入れた。 部屋はメトロン星人が改造したのだろう、ハルケギニアでは見られない様相になっている。 草を結って作ったらしい板のようなものの上に丸くて脚の短いテーブルが置いてあり、メトロン星人は その板の上に腰を下ろす。 「これは「畳」というものだよ。上がる時は、履き物を脱いでね。それがマナーだから」 タバサとシルフィードは警戒しながらも、言われた通りにタタミという板の上に乗って、 腰を下ろし目線を合わせた。怪人とテーブル、「ちゃぶ台」を囲む、何とも異様な構図が出来上がる。 「何か飲む? はい、眼兎龍茶」 メトロン星人は筒状の腕で器用に、二人の前に小さな缶を置いた。当然、こんな得体の知れないものに 易々と手をつける二人ではない。 警戒する二人を笑うメトロン星人。 「毒なんか入っちゃいないよぉ! こんな感じにぐっと行きなさい。ズズー」 メトロン星人は自分の分の缶に刺したストローを、口……らしいところに当てて、中身を一気に吸い上げた。 「ッハ~。おいちい~!」 からかっているような態度に、シルフィードは神経を逆撫でされた。 「こんなのに付き合っていられないのね! あんたの陰謀はおねえさまが暴いたわ! もう大人しく 出ていきなさい!」 強い口調で言いつけるが、メトロン星人にはさっぱり効いていないようだった。 「私は何も陰謀なんかしちゃいないよぉ。それに言われるまでもなく、私はもうすぐこの星から おさらばするのさ」 「え?」 言っている意味はよく分からなかったが、シルフィードはやはりからかわれていると受け取った。 「何でもいいから! とっとと出てくのね! リュシーさんに罪を被せようとしておいて 教会に居座るなんて、図々しすぎなのよ!」 「罪を被せるぅ……? ハッハッハッ!」 「何がおかしいのね!?」 何故か肩を揺すって笑うメトロン星人。シルフィードはますます怒るが、それでもどこ吹く風といった様子。 「まぁまぁ、そう慌てなさるな。帰る前に、私の元までたどり着いた君たちに! 私がどうしてここにいて、 何のために、何をやっていたのか! ということを一つ一つ教えてあげようじゃない」 メトロン星人はいきり立っているシルフィードに構わず、話し始めた。 「まずは爆破事件……いや、爆破未遂事件の手口から話そうかね。まぁ、至って単純だよ。 トリックはシャルロット姫、君が突き止めたので正解。タバコに仕込んだ宇宙ケシの実で、 タバコを吸った人を凶暴化させて、火薬満載のフネに火を点けてドッカーン! っていう風に 差し向ける。それだけ。タバコを利用するというのは、昔私の同族が使った手段でねぇ。 今回利用させてもらった」 犯行の手口を語ったメトロン星人は、次にシルフィードにとって驚くべきことを口にした。 「そのために、リュシーくんは差し入れにタバコを選んだんだ」 「そ、その言い方……リュシーさんも共犯だったって言いたいの!?」 シルフィードはバンッ、と激しくちゃぶ台を叩いた。 「嘘おっしゃい! リュシーさんは、あんたみたいのに協力するような人じゃないのね!」 それに対して、メトロン星人はこう返した。 「まッ、確かに昼間のリュシーくんに、自分が毒薬を配ってるなんて自覚はなかったね」 「ど、どういうこと?」 「それと一つ訂正するなら、リュシーくんが私に協力したんじゃないよ。関係が逆だ。私が、 リュシーくんの計画に手を貸したんだよ」 その言葉に、シルフィードはますます混乱する。 「それって、リュシーさんの方が主犯だって言いたいの? そんなはずないのね! あんなに人の 良さそうな人が、そんなひどいことをしようなんてこと! 訳分かんないこと言って、はぐらかそうと しないでよね!」 「ハッハッハッ、それは言い掛かりだよ。いいかね、君。人が本当に心の奥底で抱えているものというのは、 そと見からではそうそう分からないものなんだよ。昼と夜では違う顔、というのも珍しくはない」 おどけた態度を崩さないメトロン星人はうそぶき、ポンと手を叩いた。 「百聞は一見に如かず。夜のリュシーくんをお見せしようじゃないか。おーい、リュシーく~ん、 入っておいで~」 扉へ向かって呼びかけるメトロン星人。すると、外から扉が開かれて、噂のシスター・リュシーが 彼らの元へと歩み寄ってきた。 「リュシーさん……ッ!」 その表情をひと目見て、シルフィードは凍りついた。 昼間は纏められていた金色の後ろ髪が、今は解かれている。雰囲気が大きく違うのは、 決してそのせいではない。 今のリュシーは、神官ではなかった。冬の大気よりも冷たい、触れるだけで肌を切り裂かれるような 怒りのオーラを纏っている。その質は魔力の域にまで達していて、シルフィードが思わず身を引いたほどだ。 シルフィードはリュシーの正体を、直感で知った。彼女は、怒りのままに身体を突き動かす、 復讐者なのだと――。 メトロン星人の横に座ったリュシーは氷のような眼差しでタバサを見つめ、一礼した。 「お昼ぶりですね。改めて名乗ります。わたくし、神官の皮を被って殺された父と離散させられた 家族の復讐の機会を窺っていたリュシーと申します、騎士殿……いえ、シャルロット様。――ひと目でお察ししました」 タバサの中の謎の一つが、氷解した。メトロン星人が何故自分の正体を知っていたのか。 神官を装う復讐者、リュシー。それと宇宙人、メトロン星人。彼らは一体どのような関係なのだろうか。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9059.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十九話「ナックル星人の逆襲」 用心棒怪獣ブラックキング 暗殺宇宙人ナックル星人 カプセル怪獣アギラ カプセル怪獣ウインダム 宇宙ロボット キングジョー 登場 ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式が三日後に迫ったその日、 トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎えるために、艦隊を率いて ラ・ロシェールの上空に停泊していた。 後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が正装して居住まいを正している。その隣には、 艦長のフェヴィスが口ひげをいじっていた。 「やつらは遅いではないか。艦長」 ラ・ラメーがいら立って呟いた。アルビオン艦隊は、約束の刻限を超えても姿を見せないのだ。 「自らの王を手にかけたアルビオンの犬どもは、犬どもなりに着飾っているのでしょうな」 そうアルビオン嫌いの艦長が呟くと、檣楼に登った見張りの水兵が、大声で艦隊の接近を告げた。 「左上方より、艦隊!」 なるほどそちらを見やると、雲と見まごうばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静静と 降下してくるところであった。 「ふむ、あれがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン級』か……」 「あの先頭の艦は巨大ですな。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように見えますぞ」 艦隊を率いる『レキシントン』号をまじまじと観察して、ラ・ラメーとフェヴィスが言葉を交わした。 ラ・ラメーは鼻を鳴らす。 「ふむ、戦場では会いたくないものだな」 しばらく降下してくるアルビオン艦隊をじっとながめていた二人だが、後続の戦列艦の、 更に後ろについてくる飛行船の列が見え、怪訝な顔になる。 「おや? 列がまだ続いている。後ろの船は一体……」 先に聞いていた隻数より明らかに多いことに気づいて、戦列艦の背後の飛行船をよく見た途端に、 ラ・ラメーとフェヴィスのみならず、トリステイン側の艦隊の兵たちは全員が唖然となった。 「な、何だと!? あれはまさか……『円盤』ではないかね!?」 アルビオン艦隊の後尾を構成する飛行船は、大きさこそ『レキシントン』号には劣るが、 それとは別の意味で「異様」としか言いようのないものだった。 材質は木材ではなく、どう見ても金属製である。それだけでもハルケギニアの技術を大きく越えた 代物であるが、全体的な形状も、羽のついた帆船ではなく、ラダーつきの平べったい箱型と、 地球の戦闘機に近いものであった。当然、ハルケギニアの人間には馴染みのないものだ。 そしてこのような金属製の飛行物体は、宇宙人連合の最初のハルケギニア攻撃の際に、 ラ・ラメーらは目にしている。侵略者「ウチュウ人」の戦艦で、「円盤」と呼称されるものだと、 いつの間にか流れていた噂で知った。 「しかし何故、アルビオンの連中がウチュウ人とともに行軍しているのだ!?」 滝のように脂汗を流すラ・ラメーの疑問に、アルビオン軍は何も答えない。その代わりに、 アルビオン艦隊の後尾についている円盤群に動きがあった。 円盤の一機が機体を地表と水平を保ったまま一気に降下すると、底部からスポットライトのような 光を照射する。そして、どうやって積み込んでいたのか全く分からないが、円盤から身長が60メイルを 超える大怪獣が円盤の体積を無視して出現し、地上にドスン! と地響きを鳴らして着地したのだ。 「グルルルルル……!」 「ひッ!? か、怪獣まで!」 円盤から現れて、牙を剥いてうなり声を上げているのは、容貌だけで強者の貫録を漂わせている怪獣だった。 筋骨隆々の全身の体色は暗闇を想像させるほどに真っ黒で、胴体も四肢も蛇腹状になっている。頭頂部には 前に折れ曲がった金色の角が生え、背中にも同じ色のトゲが四本、横に並んでいる。装飾が少なく割とシンプルな 外見だが、その分理屈抜きの「力強さ」というものが見て取れる。 これは、工廠でボーウッドが目にした巨大怪獣と同じ個体だった。名前は、ブラックキング。 ナックル星人の誇る戦闘用の大怪獣だ。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは上を向いて首をトリステイン艦隊の方角へ向けると、口から紅蓮の熱線がほとばしった。 熱線は猛烈な勢いではるか上空まで伸びてきて、艦隊を構成する戦艦が一隻、一瞬で爆散して粉々になった。 「は……!?」 ラ・ラメーもフェヴィスも、完全に絶句した。怪獣が常識を超越した、恐るべき生物で あることは聞いている。しかしまさか、地上に仁王立ちしたまま上空の戦艦を狙い撃ちにして、 たった一撃で玉砕するなど、実際に見せつけられてもにわかには信じられなかった。 だが、攻撃してくるのはブラックキングだけではなかった。アルビオン艦隊側の円盤も 光線を照射し、更にはアルビオン艦隊までもが砲撃の雨を降らせてきたのだ。 「な、何が起きているのだ! 向こうの艦隊はどうしたというのだ!?」 怪獣と円盤、そしてアルビオン艦隊に攻撃されている事実が認められず、ラ・ラメーが 狂ったようにわめいた。部下に事態の説明を求めるための信号を送らせるが、アルビオン側は 砲撃を繰り返すばかり。 これでラ・ラメーもフェヴィスも悟った。アルビオンは親善訪問に来たのではない。侵略に来たのだと。 ようやく応戦するトリステイン艦隊。だが、ただでさえアルビオン側にも艦数と大砲の 性能差で負けているのに、そこに円盤と怪獣の攻撃まで加われば、勝ち目など微塵もなかった。 ものの数分の内にトリステイン艦隊は跡形もなく消し飛ばされ、生存者は一人も出なかった。 『クハハハハハ! 原始人の玩具の群れにしては、持った方じゃないか! ブラックキングの 準備運動くらいにはなったか!?』 アルビオン艦隊の後尾についている円盤の一隻の内部で、ナックル星人が哄笑を上げた。 この戦闘とも言えない一方的な虐殺は、ナックル星人の立てたハルケギニア侵略計画、 そしてウルトラマンゼロへの逆襲計画のほんの序章に過ぎなかった。これからクロムウェルの姿で 配下に置いたアルビオンの兵とともに、トリステインの全土を焼き払って陥落させるつもりなのだ。 『それにしても、事態を呑み込めずに恐慌していたトリステインの人間どもも愚かだが、 こっちの連中はそれに輪を掛けて愚かだな。さすがは下等種族だ』 ナックル星人はモニターに映る、アルビオン艦隊の兵士たちの様子を見やり、侮蔑の嘲笑を送った。 ボーウッドと、お飾りに過ぎない司令長官のジョンストンに代わって実質の指揮と執るワルド以外の 全員が、「アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」と唱えて諸手を上げているのだ。 彼らは異星人と怪獣とともに侵略行為を働くという異常事態を、クロムウェルに化けたナックル星人の 「彼らは私の虚無の力により、アルビオンの盟友となった」というどう考えても無理のある虚言を 疑うことすらせずに信じ切った。ボーウッドとワルドだけは疑念を挟んでいたようだが、二人とも 特に反論を示すことはしなかった。 『無知蒙昧とはこのことだ。奴らは知性を持つ人間とも呼べん。都合のいい現実という、 与えられた餌だけが全ての犬畜生だな』 散々見下されているとも知らずに万歳を繰り返すアルビオン兵をこき下ろすナックル星人。 本来なら、こんな連中の後に続くだけでも我慢がならないほど腹立たしいが、今度の ウルトラマンゼロに復讐する計画には、「人間」の存在がどうしても必要なのだ。 だから蹴散らしたい衝動をぐっとこらえて、地上のブラックキングに指示を送る。 『ブラックキング、前に進め! 最初の行き先は、原住民のちんけな集落、「タルブ村」だ!』 「グアアアアァァァァ!」 ナックル星人のテレパシーによる指令を受けたブラックキングは、足を前に出し、行進を始める。 大地に散らばったトリステイン艦隊の残骸や、森の木々を薙ぎ倒して、タルブ村へ向けて進み出した。 その後ろ姿をアルビオン艦隊が追いかけて、それとともにナックル星人の円盤群も進んでいく。 怪獣と円盤、そして侵略者の言いなりと化した誇りなき軍隊は、トリステインの領空を不躾に犯していった。 ルイズたちの一行は、『竜の羽衣』を発見したことで宝探しの旅を終わらせ、魔法学院に 帰還することになった。ただシエスタだけは、アンリエッタの結婚式の祝祭が近いので、 休暇の名目でタルブ村に留まることになった。 ゼロ戦の方の『竜の羽衣』は、佐々木武雄の遺言により才人に進呈されることになった。 時代は違えども自分と同じ故郷の人間の遺物に妙な感慨を抱いた才人はありがたく譲り受けると、 ギーシュの父のコネで竜騎士隊を借り受け、彼らにゼロ戦を運んでもらった。 しかし、べらぼうに高い運送料までは考慮していなかった。いざ魔法学院の中庭まで運んでもらってから どうしようかと困っていたら、意外な人物が立て替えてくれた。 「なるほど! この風車を回転させて、風の力を発生させるのか! この翼も、羽ばたくようには 出来ておらんが、揚力を得るのに理想的な形状をしている! いやよくできておるな! まことに 素晴らしい!」 その人物が中庭に鎮座したゼロ戦をしげしげと見て回り、才人からの説明の一つ一つに感心した。 ミスタ・コルベール。御年四十二歳である。 「プロペラを回すには、ガソリンという油が必要なのか。それは『錬金』で調合すれば、 何とかなるだろう。機体も完璧に直さねばな。この継ぎ接ぎのままでは、飛ぶ前に プロペラの風で分解してしまうだろう。やることは多いが、是非実際に飛んでいるところを 見たいものだ!」 コルベールは、運ばれてきたゼロ戦をひと目見ただけで、ただの奇妙な物体などではないことを見抜き、 空を飛ぶ機械だと聞いた途端に年甲斐もなく大はしゃぎした。今はゼロ戦を元の飛べる状態にしようと、 あれこれ算段を立てている。 彼は火の系統のメイジだが、破壊と攻撃を至上とするのが常識のメイジ仲間とは大きく異なり、 火の魔法を生活や建設的なことに活かそうと日々研究している、いわば「変わり者」だった。 そんな彼が、魔法の力に依らずに空を飛ぶ「飛行機」に興味を抱かないはずがなかった。 彼は才人からゼロ戦を預かると、すぐさま修理のための研究をするために、研究室に駆け込んだ。 才人の方は、エアロヴァイパーに撃ち落とされ大破したゼロ戦を、元の通りに直してもらいたいという一心で、 コルベールに預けた。佐々木の遺言には、才人に向けての「なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい」 というメッセージがあった。だがそれは今となっては、到底叶わぬ相談だ。何故なら、彼の属した「大日本帝国」は はるか昔に無くなったからだ。だから、いつかゼロ戦を返す日を夢見て必死に形だけでも直したであろう 佐々木の無念に少しでも応じようと、完全な修理を頼んだのだ。 それから時間が経過し、アンリエッタの結婚式の予定日の三日前となった日。才人はルイズの部屋で、 ゼロに話しかけた。 「なぁゼロ、俺、ジャンボットが過去のハルケギニアに到着してたことも驚きだったけど、 シエスタのひいじいさんが日本人だったことはもっと驚いたよ」 『そうだな。お前以外にも、この世界に迷い込んだ地球人がいたんだな』 相槌を打ったゼロが、今までのことを思い返す。 『思えば、スパイダーを持ち込んだ科学特捜隊員や、人じゃないけどキュルケの家の家宝になってた 本とかあったな。このハルケギニアと地球は、意外なところでつながってるのかもしれないな』 当たり前だが、別の宇宙同士は通常の方法では往来など不可能だ。しかし世界は広いもので、 宇宙と宇宙をつなぐ時間と空間を超越した「場所」もない訳ではない。かの「怪獣墓場」がその一例で、 あそこには様々な宇宙から怪獣の魂が行き着くという。地球とハルケギニアも、そういう超常的な 「通り道」がどこかにあるのかもしれない。 『そうでもないと、三人も地球人がこの世界に迷い込むなんてことが説明できないもんな。 もしかしたら、他にもこっちに来てる地球人がいたりしてな』 「他にもか……。今までの人はもうお亡くなりだったけど、まだ生きてる人もいるかもしれないってことだな」 『もし出会ったら、俺はどうしようか……。当然地球に連れて帰すべきだろうが、任務があるからなぁ……』 「ちょっと! そこうるさいわよッ! 人が考えごとしてる時に!」 机に向かってうんうんうなっていたルイズが振り返って叱ってきた。彼女は式がもう目と鼻の先なのに、 まだ祝詞を完成させていなかった。色々案は出しているが、どうも納得できないらしい。 『ハハハ。大変だな、お互い……』 ゼロが思わず笑ったが、次の瞬間には声が強張る。 『ん何ッ!? 怪獣の鳴き声だ!』 「えッ!? また現れたのか!」 途端に才人とルイズが色めき立つ。だが次のゼロの言葉で、ますます驚愕することになった。 『それだけじゃねぇ! 一緒に円盤の飛行音もする! しかも何機もだ!』 「それって、また宇宙人連合とかいうのの攻撃!?」 トリスタニアでの円盤群の攻勢と、アルビオンの四大宇宙人を思い出すルイズ。どちらも ゼロたちに撃退されたが、性懲りもなく三度攻めてきたのか。 『違いないな。場所はラ・ロシェール……いや、タルブ村だ!』 「タルブ村だって!?」 瞬時に青ざめる才人とルイズ。既にゴルドンの被害に遭ったというのに、あの村はまだ苦しめられるのか。 それだけではない。あそこにはシエスタが残っている! 『やべぇ! もう攻撃は始まってる! 今から飛んでったら間に合わねぇぜ! こういう時は…… ミラーナイト! 来てくれ!』 ゼロが姿見に向かって叫ぶと、直ちにミラーナイトの姿が現れた。 『状況はこちらも把握してます。すぐに転送しますよ! じっとしてて!』 「相棒! 俺っちを忘れるんじゃねえぞ!」 存在を主張したデルフリンガーを才人が掴み、ルイズは『始祖の祈祷書』を抱きかかえると、 ミラーナイトが鏡の中から他者を自分のように鏡面を通じて移動させる光線技、ナイトムーバーを使用した。 才人とルイズはミラーナイトのシンボルの十字の光に包まれると、一気に姿見の中に吸い込まれ、 部屋から姿を消した。 次の瞬間には、タルブ村の側の森の中に、水たまりを出口にして転送された。 「わッ! ホントに一瞬ね。すごいわ」 『すみませんが、私はジャンボットが今、手を離せない状態なので、しばらく救援には行けません。 ゼロ、タルブ村の人々をお願いします!』 『分かってるぜ! 行くぜ才人! ルイズ!』 「ああ!」 才人とルイズはすぐに森から飛び出し、タルブ村へ駆けつける。そこで、地獄絵図を 目の当たりにすることになった。 「グアアアアァァァァ!」 「ひ、ひどい……!」 円盤群と混成しているアルビオン艦隊は、上空からタルブ村に砲弾の雨を降り注いでいる。 円盤もまた、光線を照射して民家を焼いている。そしてブラックキングが、熱線を吐き散らして 草原を火の海に変え、家を踏み潰す。ゴルドンの脅威がなくなり、家々の建て直しの着手が されたばかりのタルブ村が、炎と煙に包まれて灰燼へと帰していく。住人たちは焦熱地獄の中から 必死に逃げ回って村から脱出していくが、ほとんどの者は火の手に逃げ道を塞がれて 苦しみもがいていた。 「助けてくれええええ!」 「誰かぁぁぁぁ!」 「おお、始祖ブリミルよ! 我らをお助け下さい!」 「えーん! お母さーん!」 爆音とブラックキングの鳴き声に混じって、村人たちの悲鳴が休みなく上がる。顔から 血の気が失せたルイズは、空に浮かぶ最も巨大な戦艦を見上げた。 あの船には見覚えがある。アルビオンに赴いた際に、浮遊大陸の周囲を監視していた飛行船だ。 名前は『ロイヤル・ソヴリン』……いや、レコン・キスタに奪われて『レキシントン』号となったとか。 「あれはアルビオン軍!? どうしてアルビオンが宇宙人たちに荷担してるの!?」 「今はどうだっていい! 早く侵略者どもを追い払って、タルブ村を救わないと!」 才人がすぐにウルトラゼロアイを取り出すが、変身をゼロが制止する。 『待て才人! 今俺が出ていったら、奴らは今以上に激しく暴れるだろう。そうなったら タルブ村の人たちがますます戦火に巻かれちまうぜ!』 「けど、それじゃあどうするんだよ!」 焦る才人に、ゼロが指摘する。 『忘れたのか? 俺たちにはこういう時に力になってくれる、頼もしい仲間がいるだろ!』 ゼロの言わんとするところを、才人はすぐに理解した。 「そっか! カプセル怪獣だな!」 そうと分かるとすぐに小箱を取り出し、カプセルを二つ手に取った。そして右手を振りかぶり、 燃えていくタルブ村へ向けて投げ飛ばした。 「行け! アギラ、ウインダム!」 「お姉ちゃーん! 助けてー! 苦しいよー!」 半壊していたシエスタの生家は、村の者たちの努力により、とりあえず寝泊まりは出来る程度には 修復されていた。しかしアルビオン軍の襲撃により、家は炎に包まれて崩壊してしまった。しかも 倒れた柱に、幼い妹が下敷きになっている。運の悪いことに父母は用事で家を離れており、シエスタしか 助けられそうな者がいない。 「頑張って! すぐに、お姉ちゃんが助けるから!」 懸命に励ますシエスタだが、所詮女の細腕では、倒れた柱をどかすのは不可能だ。それでも 持ち上げようと力を振り絞っているシエスタの周りに他の弟たちがしがみついている。 しかし、危険もかえりみずに妹を救おうとするシエスタの兄弟愛を嘲笑うように、冷酷な現実が突きつけられる。 「グアアアアァァァァ!」 「!? きゃあああああああ!」 天井が崩れて外と内の境界がなくなったシエスタの家に、ブラックキングが迫る。足を振り上げ、 シエスタたちを虫けらのように踏み潰そうとしている。太陽光と明日を遮る影が自分たちを包むと、 シエスタは目をつぶって弟たちを抱きしめた。 しかし、彼女たちの命が踏みにじられることはなかった。 「キギョ―――――ウ!」 「グアアアアァァァァ!?」 シエスタたちが踏み潰される寸前、前に細長く伸びた頭部の額に、前に突き出た一本角を生やした 恐竜型の怪獣が突っ込んできて、ブラックキングに体当たりしたのだ。虚を突かれたブラックキングは 仰向けに倒れる。 「えッ!? な、何が起きたの!? 新しい怪獣!?」 「キギョ―――――ウ!」 恐竜型の怪獣は、ブラックキングとシエスタたちの間に立ち、起き上がるブラックキングに エリマキトカゲのような赤い襟巻きを逆立てて威嚇する。しかし目つきは眠そうに半開きに なっているのが、どことなく愛らしい。 この怪獣こそ、三体のカプセル怪獣の最後の一体、アギラなのである。 「グワアアアアアアア!」 アギラと一緒に召喚されたウインダムの方は、額のランプからレーザーを空に向けて撃って、 戦艦と円盤を牽制する。両者とも撃ち落とされては敵わぬと言わんばかりに上昇し、結果タルブ村への 攻撃の手を止めさせられた。 「シエスター! 大丈夫かー!」 「えッ!? さ、サイトさん! ミス・ヴァリエールまで!?」 アギラがブラックキングとにらみ合っている間に、才人とルイズはシエスタの下へ駆けつけた。 二人の姿を確かめて、シエスタは仰天した。 「ど、どうしてここに!? 学院に帰ったんじゃ……」 「説明は後だ! 今はすぐにここから避難するんだ!」 シエスタの言葉を遮った才人は、すぐに状況を確認。彼女の妹が柱に押し潰されて動けないことを把握した。 「相棒、俺を使いな! 木の柱なんか、軽く真っ二つよ!」 「おっし! でりゃあああッ!」 デルフリンガーを引き抜いた才人は、その刃でシエスタの妹にのしかかる柱を分割した。 それにより、妹は自由になる。 「お兄ちゃん、ありがとう!」 「お礼は本当に助かってからにして! さぁ、早く避難するわよ。シエスタも手伝いなさい!」 ルイズはシエスタの弟たちを誘導して、焼け崩れた家からの脱出を促す。シエスタも妹を背負って 逃げようとするが、才人が留まっているのに気づいて振り返る。 「サイトさん! 何してるんですか!? 早く逃げましょう!」 と急かすと、振り返った才人は、ひと言告げた。 「先に行っててくれ。俺は、あいつらと戦うよ」 「ええッ!?」 シエスタは、才人の言葉が信じられなかった。 「そんな、無茶です! あの悪魔のような軍勢相手に、一人でなんて! サイトさん、命を 粗末にしないで下さい!」 事情を知らないシエスタは懸命に説得するが、そこでルイズに手を掴まれて引っ張られる。 「早くしなさい! 妹背負ってるんでしょうが!」 「あッ、ミス・ヴァリエール!?」 シエスタがルイズに引っ張られていなくなると、才人はカプセル怪獣たちへの指示を飛ばし始めた。 「アギラはブラックキングを、ウインダムは円盤と戦艦を村から追い出すんだ! 頑張ってくれ!」 「キギョ―――――ウ!」 「グワアアアアアアア!」 命令を受けたアギラとウインダムは、それぞれの敵に挑んでいく。アギラはブラックキングに突進し、 ウインダムはレーザーを振りまいて空の敵を下がらせる。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは、正面から向かってくるアギラに熱線を吐き出した。だがアギラは跳躍して 足元に当たった熱線を跳び越えると、素早い身のこなしでブラックキングの懐に入り込む。 「キギョ―――――ウ!」 そして相手の両足に自分の足を引っ掛けると、力の限りを込めて足払いした。 「グアアアアァァァァ!」 大怪獣のブラックキングも、足の支えがなければ立っていることは出来ない。今度は前のめりに倒れて、 うつ伏せの状態になった。 「キギョ―――――ウ!」 ブラックキングを転倒させたアギラは尻尾を掴み、ズリズリ引きずっていく。ブラックキングは 瞬く間に村から森へと運ばれていった。 「グアアアアァァァァ!」 ようやく尻尾からアギラを振り払い、起き上がる。そしてアギラを叩きのめそうと腕と尻尾を振り回すが、 アギラは俊敏な身のこなしで打撃をかわし続ける。 アギラはウインダムのような遠隔攻撃も、ミクラスのような怪力も持っていない。だがその代わりに、 その二体にはない敏捷性がある。怪力自慢のブラックキングに正面から立ち向かって敵う訳がない程度の力量だが、 回避に徹すれば、重量級なのが災いして動きのとろいブラックキングを足止めすることは問題なく出来るのだ。 才人は、敵が離れていくことで村人たちが避難する時間が出来ていることを確認した。 「いいぞアギラ、ウインダム! 後ちょっとでみんなの避難が完了する!」 タルブ村の人々の避難が終われば、ウルトラマンゼロは気兼ねなく戦うことが出来る。 アギラとウインダムは、ゼロの戦いの場を作るために尽力し続けた。 カプセル怪獣に侵略部隊が翻弄されていることに、ナックル星人が苛立ちを見せていた。 『ブラックキングめ、何をやっている! あんなチンケな雑魚怪獣なんぞに振り回されやがって! どれだけの手間暇をかけて貴様を育て上げたと思ってるんだ!』 アギラを捉えることが出来ないでいるブラックキングに罵声を飛ばすが、それで戦況が変わったりはしない。 大きく舌打ちすると、次の手を打つことを決定した。 『仕方ない……ウルトラマンゼロが現れるまで取っておくつもりだったが、アレを加勢に出すとする!』 「キギョ―――――ウ!」 「グワアアアアアアア!」 アギラとウインダムのお陰で、逃げ遅れている人はもうわずかになった。そろそろ変身する時かと、 才人が改めてウルトラゼロアイを取り出す。 だがここで異常が発生した。いきなりアギラが、どこからか飛んできた怪光線に撃たれたのだ。 アギラは激しく横転する。 「キギョ―――――ウ!」 「何!? 誰が撃ったんだ!?」 位置的に考えて、ウインダムが牽制している円盤からの攻撃ではない。才人が怪光線の 飛んできた方向を見上げると、その方角の空に、四機の不揃いの形状の円盤が新たに出現していた。 『なッ! あ、あの円盤は!』 ゼロが声を荒げると、円盤が地上へと降下し出した。まず二つの円柱をくっつけたような円盤が 森の中に着陸すると、最も円盤らしい外観の円盤が、あろうことかその上に乗っかり、アンテナを収納。 次に前面を埋め尽くすほどの面積の二つの電光パネルを持った円盤が更に上に乗り、最後に残った 腕を持った円盤がジョイントした。 気がつけば四機の円盤は、一機の巨大ロボットに変わっていた。ロボットはグワアッシ、グワアッシと 駆動音を鳴り響かせながら、森の木々を踏み潰す。 「あ、あのロボットはッ!!」 驚愕する才人。円盤が合体して出来上がったロボットは、通信端末を使わずとも名前を知っている。 ゼロも、その脅威を父親のセブンから聞いていた。 宇宙でも指折りの科学力を有するペダン星人が築き上げた、かのウルトラセブンが自分一人の力では 勝てなかったほどの恐るべきスーパーロボット、キングジョーだ! 『フハハハハハ! 行け、キングジョーよ! その雑魚どもを蹴散らせ!』 円盤の中で、キングジョーを繰り出したナックル星人が哄笑した。 あのキングジョーは、ペダン星人のオリジナルではない。ナックル星が鹵獲した機体を解析、 逆利用するために造り上げた模造品なのだ。だがその性能は、決してオリジナルの引けを 取るものではないとナックル星人は自負している。 セブンを散々に苦しめたキングジョーが、セブンから授けられたカプセル怪獣に襲い掛かる! 「グワアアアアアアア!」 キングジョーはウインダムの方へと、一定の足取りで向かっていた。ウインダムはレーザーで 先制攻撃を仕掛けるが、キングジョーは直撃を受けてもびくともしない。 逆に、キングジョーの両目から放たれた怪光線を食らって吹っ飛ばされる結果になった。 「グワアアアアアアア!」 もんどりうったウインダムにキングジョーが接近し、頭部を片手で鷲掴みにすると起き上がらせ、 すさまじい握力で握り潰し出す。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムの悲鳴が上がる。アギラの方も、倒れたことでブラックキングの尻尾に滅多打ちにされ、 蹴飛ばされた挙句に熱線を食らう。 「グアアアアァァァァ!」 「キギョ―――――ウ!」 ウインダムとアギラが一気に追い詰められたことに、才人は泡を食った。 「まずい! 戻れ!」 これ以上二体が痛めつけられる前に、カプセルの状態に戻す。黄色と赤のカプセルが手の平の中に 飛び込んできた。 「グアアアアァァァァ!」 ウインダムとアギラがいなくなったことで、せっかくタルブ村から引き離したブラックキングと 円盤、戦艦が、キングジョーまで加わって押し寄せてくる。 しかし、カプセル怪獣たちの奮闘は無駄ではない。彼らが敵を引きつけてくれたお陰で、 タルブ村の住人の避難はほとんど完了した。これなら、ゼロが万全の状態で戦える。 「デュワッ!」 才人は満を持してゼロアイを装着し、変身を行う! ……実はこの時、才人の身を案じたシエスタが、単身舞い戻って来ていた。しかし反対方向を 向いていた才人はそれに気づかなかった。 「サイトさん! 早く逃げ……きゃあッ!」 シエスタが駆けつけるのと、才人が変身を行うのは、ほぼ同時だった。急に才人の身体が光り輝いたので、 シエスタは思わず目を背ける。 そして目を開けた時には、才人の姿は目の前になく、代わりにウルトラマンゼロが天高く仁王立ちしていた。 「ええぇッ!? ど、どういうことですか……!? 何でサイトさんがいなくなって、ウルトラマンゼロが……。 まさか、サイトさんが……?」 「こ、こらー! 勝手に戻るんじゃないわよ! 危険でしょ!? さぁ早くこっちに! ……何も見てないわよね!?」 呆然としているところに、シエスタを探しに来たルイズに手を掴まれて、また引っ張られていった。 「グアアアアァァァァ!」 ゼロがタルブ村に登場すると、再び村に踏み入ったブラックキングが身体を揺らして威嚇し、 キングジョーは相変わらずグワアッシ、グワアッシと駆動音を鳴らして前進し続ける。 大怪獣とロボット怪獣相手に、ゼロが攻撃を仕掛ける。 「ゼアッ!」 頭に両手を添えてゼロスラッガーをキングジョーへ放り、振り向き様にブラックキングへ エメリウムスラッシュを発射した。 「グアアアアァァァァ!」 しかし、ゼロスラッガーはキングジョーの装甲に呆気なく弾き返され、エメリウムスラッシュは ブラックキングの交差した腕に防御された。 『くそッ、やっぱ一筋縄じゃ行かねぇか……!』 ブラックキングを操ることと、円盤の形状からして、黒幕はナックル星人。逆襲に来たのだろうから、 易々と倒せるような手下を連れてくるはずがない。 キングジョーとブラックキングに挟まれているゼロだが、そこに更に円盤群が一斉に光線を 発射して攻撃してきた。 『ぐぅッ!』 咄嗟に腕で顔をかばうゼロ。光線が四方八方から襲い掛かる上に、キングジョーの怪光線と ブラックキングの熱線まで飛んできて、集中攻撃を浴びる形になる。攻撃は途切れる様子がない。 『ちぃッ……! このまま動きを封じようって腹か!? せこい真似を……!』 集中砲火を食らうゼロは、防御に手一杯で身動きを取ることが出来ない。そうやってエネルギーが 切れる時を待つつもりであることは読んだが、だからと言って反撃に転じられる訳でもなかった。 『くぅッ! どうするか……!』 このままではジリ貧。無理をしてでも反撃に出ようかと考えたその時のことだった。 空の彼方から一発のミサイルが飛んできて、円盤を一機爆破して撃墜した! 『! 今のはッ!』 突然のゼロへの支援攻撃に、敵の攻撃の手が一旦止まる。ゼロの方も、ミサイルの乱入に驚きを見せていた。 科学技術が中世レベル止まりのハルケギニアに、ミサイルなんてものが存在する訳がない。 つまり今のは、ハルケギニア外の技術。そしてミサイルを扱う自分の味方に、ゼロは一人だけ 心当たりがあった。 ミサイルの飛んできた方向、『もう一つの竜の羽衣』が鎮座する洞窟のある山脈へ首を向けたゼロは、 山の向こうから、紅白の鳥の如き宇宙船が大空へ上昇していくところを目撃した。 『ジャンバード! 遂にお目覚めだな!』 『もう一つの竜の羽衣』ことジャンバードは、ブースターの火力を強めて急加速。一気に 円盤群と艦隊に接近していくと、ビームエメラルドで円盤をまた一機撃墜。それで開いた 戦列の隙間に突っ込んで、高速飛行が起こす風圧で隊列を乱した。 『ジャン! ファイト!!』 掛け声とともに宙返りを行うジャンバード。すると機首が上下に反転したかと思うと、 本来の下部から五本指の手が現れ、機首の小さなウィングが畳まれる。次に主翼が変形して 脚部に変わっていき、尾翼が本体から分離してその下からもう一本の腕が現れ、離れた尾翼は その肩に接合して盾となった。そして胴体の首になる部分が開くと、中から兜を被った 騎士のような頭部がせり上がり、黄色の目が光り輝いた。 ジャンバードは一瞬で、鋼鉄の武人の形態への変身を完了した! この巨大ロボットこそ、 ハルケギニアの平和を守るための、遠い星からの贈りもの、ジャンボットである! 『はぁぁぁぁぁッ!』 背面のブースターから火を噴かせるジャンボットは、ジャンバード時の加速に乗ったまま、 キングジョーにショルダータックルを決めた。それにより、キングジョーの4万8000tもの 超重量の機体が放物線を描いて吹っ飛んでいき、森の中に仰向けに倒れた。 『ジャンナックル!』 振り返ったジャンボットは握り拳を作った左腕を発射する。 「グアアアアァァァァ!」 左腕はブラックキングの腹部にめり込み、地面に水平に殴り飛ばした。ブラックキングもまた、 森の中に逆戻りして倒れ込んだ。 登場してすぐに二大怪獣を薙ぎ倒したジャンボットは、ゼロの左隣に着地する。 『ゼロ、すまない。私としたことが寝坊してしまったようだ。この過ちは、これからの戦いの中で償おう!』 『いいってことよ! 無事に復活して何よりだぜ!』 反対側、ゼロの右隣には、ミラーナイトが遅れて着地した。 『ミラーナイト! やってくれたんだな!』 『ええ。どうにか修理が間に合いました。ジャンボットはもう問題ありませんよ』 ミラーナイトの報告を聞き、ゼロの心に活力があふれてきた。 『よぉしッ! グレンファイヤーがまだいないが、ウルティメイトフォースゼロ、出撃だぜ! ナックル星人の大軍団をぶっ飛ばすぞ!』 『おう!』『はい!』 ゼロの掛け声にジャンボットとミラーナイトが応じ、三人がそれぞれ別の方向へ、自分たちを 取り囲む敵に対して構えを取った。 南の森の中へ避難をしたタルブ村の住民たちは、空を駆るジャンバードの勇姿を目にすると、 口々に叫んだ。 「あれは、『竜の羽衣』じゃないか!?」 「本当に空を飛んでるぞ! あんな鉄の塊が!」 「羽を羽ばたかせることもなく、火を噴いて! 信じられない!」 そしてジャンバードがジャンボットに変形すると、興奮は最高潮になった。 「『竜の羽衣』が、巨人の姿になった!」 「ササキの話は本当だったんだ! 巨人になって、人知れず村を助けたって!」 「俺たちのことを、助けてくれるのか!?」 周りが騒然としている中、シエスタは呆然とひと言つぶやく。 「ひいおじいちゃんのお話……嘘じゃなかったんだ……」 一方で唯一事情を知るルイズは、ジャンボットの復活とゼロ、ミラーナイトの三人で並び立つ姿を見やって、 力強い表情になる。 「ゼロ……ミラーナイト……ジャンボット……! 必ず勝って……!」 ギュッと『始祖の祈祷書』を握り締めながら、勝利を願った。 『ほう……鏡の巨人に加えて、ロボット戦士まで出てくるとは……。キングジョーを吹っ飛ばすとは大したものだ……』 円盤の旗艦の内部で、並び立ったゼロたちをながめたナックル星人がつぶやく。円盤が二機落とされ、 自慢の二大怪獣がどちらも倒れ伏したという、傍目から見れば旗色の悪い流れなのだが、その声音に 焦りの色はない。 『ククク……浮遊大陸の時はみっともない姿を晒したが、今度はそうは行かんぞ。たとえ何人増えようと、 相応の準備をしてきているのだからなぁ……。せいぜい今の内に調子づいてるがいい。直に、貴様らの方が 慌てふためくようになるさ……クハハハハッ!』 まだ奥の手を隠し持っているらしいナックル星人は、モニターの中のゼロたち三人に 不気味な嘲笑を浴びせかけた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6194.html
前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!! それは春の使い魔召還の儀に突然やってきた。 何度も失敗しても諦めなかったルイズの召還に答えてやって来た。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・ それは天に悠々とそびえ立っていた。 「ゼロ・・・のルイズが・・・」 誰かが呟いた。その声に嘲りと多少の哀れみを込めて、 「う・・そ・・・」 ルイズは泣きそうな顔で目の前の現実を否定しようと、教師であるコルベールに涙目で訴える。 だが、コルベールはなんとも残念な表情で冷たく重い一言を言い放つ 「残念ながらやり直しは出来ません」・・・と、 そしてルイズは召還されたモノに対峙した。 学友であるはずの男子からは蔑みの言葉が飛び交い、女子からは哀れみの視線が突き刺さる。 だが、彼らはまだ、その雄雄しくそびえるソレが彼らの想像しているものよりも ずっとやっかいで危険なモノだとは誰一人気がついていない。 だからルイズの心を深くえぐる様にヤジを飛ばすのだ。 「ゼロのルイズがゴミバケツを召還した!!」と、 ルイズは自分の事が情けなくて心がはち切れそうだった。様々な思いを持って臨んだ召還の儀、 何度も、何度も失敗しては馬鹿にされてそれでも諦めずに挑んで、 やっと成功したと思ったら召喚されたのはゴミバケツ・・・しかもそれに契約しろと言う。 私が何か悪い事をしたのかと心で毒づき、後で全員ふっ飛ばしてやると不穏な事を考えながら 件のゴミバケツに意を決して契約のキスをしようと近づいたその時!! ガポオォン!! 「がっふああ!?」 唐突にゴミバケツの蓋が飛び上がり、ルイズの顎を見事に打ち抜いた。 見事なアッパーを喰らって宙に舞うルイズ、そして・・・ 「な、なんだ!!ゴミバケツから人が沢山出てきたぞ!?」 そう、ゴミバケツからなんと5人もの人が出てきたのだ。 出てきた人々は皆、一様に白い服に首元にリボンをつけており、個人で違った眼鏡をかけていた。 そのうち4人は額に何かしらの文字らしきモノが掘り込んであり、唯一、髪の毛を生やした男がどうやら彼らの長のようだ。 「いやぁ、よいしょっと」 ゴミバケツから華麗に空中トリプルアクセルを決めながら地面に着地する謎の集団の長 「みぎゃああ!!」 その足元にはお約束の如く、ルイズが・・・そして次々に飛び降りる面々 「よっと」 「ぎゃああ!!」 「ほっと」 「ゆだあああ!!」 「おっと」 「いたあああ!!」 「おいしょ!!」 「ぐあああああ!!」 もう最後の方は名門貴族の子女なんかみじんも感じさせない悲鳴で悶絶するルイズ、 そしてあまりにも現実離れした事態に唖然となる一同、それらを見渡して男たちは・・・ 「博士、目的地とは違う場所に出ましたよ?」 「ふむ、A君、これはどういう事だろうね」 「博士!!なんかタイムマシーンの設定がめちゃくちゃになってます」 「むむ、と言う事はC君、先ほどの時空の揺れが原因で別世界に飛ばされたかもな」 「あー、そこの髪の毛の薄い方、2週間程でふさふさに戻る壷買ってみませんか?」 「なんと!!おいくら程で!?」 お前ら!!人の上でいつまで雑談してるんだぁ!!」 華奢な体のどこにそんな力があったのか踏みつけていた5人(+コッパゲ)をぶっ飛ばして復活するルイズ 「あ、あ、あ、ああ、あんた達!!きききき貴族にこんな事してただで済むと思っているの!?」 怒り最高潮でマトモに呂律も回らないし、吹っ飛ばされても平然としている5人に、 ルイズのテンションは更にヒートアップ 「大体あああ、あんた達は一体誰なのよ!!それとなんでゴミバケツから出てくるのよ!!」 一気にまくし立てるルイズを見ても尚、その男たちの長らしき男はマイペースにゆったりと起き上がる その様子を見ていた小太りの男子が笑いながら大声で叫んだ 「ゼロのルイズ!!平民に馬鹿にされてんぞー」 大笑いが起こったと思った瞬間にその小太りにどこからとも無くスパナが飛んできて顔面直撃!! そのまま轟沈、白目を剥いてその場に倒れてしまった。 いったい何処からと皆が首をかしげる中、謎の博士と呼ばれた男は咳をして、名乗った。 「私?私めは科学者 根腐軸盆です」 「助手Aです」 「助手Bです」 「助手Cです」 「助手Dです」 ここにハルケギニアの歴史を塗り替える(悪い意味で)使い魔が召喚されたのであった。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・ ・・ ・ 「はい、んじゃあとっとと契約済ませといて、先生ミスタ・Bと話あるから」 生徒の進退よりも自分の生え際の進退を気にする男、コルベールのおざなりな説明と ルイズの熱心な説得(自分勝手な意見を延々と喋っただけとも言う)により今、まさに 契約の儀が執り行われようと・・・ 「我の使い魔となせ・・・」 ぷちゅうう・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・ ・ 「ねぇ、この生物は?」 「人喰いゾリラのゾーリンちゃんです」 がぷ 「ぎゃあああああ!!」 やっぱ召喚されてねぇかも・・・ 前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!!